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2015.03.10

『ばけたま長屋』 おかしな三人組のおかしな幽霊探索行

 独り立ちして浅草元鳥越町の裏長屋に引っ越してきた指物師の弦次。ところが長屋の住人は職業不詳の三五郎のみ、他はある部屋に出る女の幽霊を恐れて出て行ってしまったらしい。そこに幽霊画を描くために本物を見たいという町絵師・朔天も越してきて、弦次は嫌々幽霊と対峙する羽目に……

 奇怪な出来事をありのままに描き出す怪談と、奇怪な出来事の真実をロジカルに解き明かすミステリというのは、想像以上に親和性が高いというのは、これまでこのブログでも何度か指摘してきたことであります。
 しかし、怪談ミステリとも言うべき作品、それも時代ものを、デビュー以来ほぼ一環して発表してきた作家はなかなかに珍しいのではないでしょうか。
 そんな輪渡颯介の最新作『ばけたま長屋』も、もちろん時代怪談ミステリ。数々の幽霊話とその真実に、三人のおかしな若者が挑む連作集であります。

 主人公の指物師の青年・弦次は、比較的温厚な性格ながら、見栄と心意気を重んじる江戸っ子。修行の末にようやく独り立ちした彼が、住居兼仕事場として、浅草の裏長屋に越してきたことが物語の始まりであります。
 深く考えずに越してきたものの、長屋に暮らすのは自分と、妙に調子の良い謎の男・三五郎のみ。それもそのはず、長屋の一部屋には女の幽霊が出る部屋があり、弦次も何かに引き寄せられるように、幽霊が部屋の中の箪笥から現れる様を目撃してしまうのでした。

 怖い話を聞かされると相手を思わず殴りそうになるくらい怖がりながら、ここで逃げ出すのは男がすたる、と弦次は変な意地を張るのですが、連日の怪奇現象に、弱っていくばかりであります。
 そうこうしている間に長屋に越してきたのは、知る人ぞ知る腕利きながら、真に迫った幽霊画を描きたいという想いに取り憑かれた若き絵師・雲居朔天。
 とある商人から幽霊画を依頼され、本物の幽霊画を見るために越してきたという朔天を交え、いよいよ幽霊と対峙しようとする弦次と三五郎が見たものは……


 そんな第1話を皮切りに展開していくのは、成り行きから幽霊を探す羽目になってしまった弦次・三五郎・朔天のおかしな探索行。
 人の良い大家の半右衛門、弦次の妹で明るく脳天気な照と、彼らを取り巻く人々が持ち込んでくる幽霊話に対して、時に幽霊の真偽を確かめ、時に幽霊の真意を探り……と、弦次たちは話の裏側を探っていくこととなります。

 冒頭に述べたとおり、デビュー以来怪談を扱い続けている作者だけに、怪談描写の確かさは言うまでもないお話。
 特に第1話の、自分の部屋で寝ていたはずが、気付けば幽霊の出る部屋の前に佇んでいたというくだりや、最終話に登場する幽霊が、真っ正面からでは見えず、顔を逸らすと視界の隅に見えるという描写など、実に怖い。
 この辺りは実話怪談などでもしばしば見かける描写ではありますが、その辺りを巧みに物語に織り込んでみせるのは、作者ならではでしょう。

 そしてもう一つの魅力は、登場人物のユニークさであります。
 主人公トリオをはじめとする登場人物のキャラ立ちと、彼らのどこか暢気さが漂う言動は、重い話も少なくない(それはもう、想いを残した幽霊が出るくらいですから……)本作の空気を、軽くしてくれます。
 この辺りも、作者のお得意とするところであり――作者のファンであれば、いや作者の作品を初めて手にする方であっても、すんなりと作品世界にはまることができるでしょう。

 もっとも、その軽さも善し悪しで、連作短編ということもあり、怖いは怖いが、物語自体はちょっとこじんまりしているかな……

 などと贅沢なことを考えなかったでもないのですが、しかしそんな気持ちが軽く吹っ飛ばされるのが本作の終盤。
 詳しくは書けませんが、物語が進んでいくうちに膨らんでいく「おや?」という気持ちが、「!!」となっていく様は、まさに「怪談ミステリ」の醍醐味でありましょう。これだから、作者の作品はやめられないのであります。

 そして一つの物語は結末を迎えることとなりますが、しかし人が人である限り、世に幽霊の種は尽きません。ということは三人組の冒険もまだまだ続くということで……是非とも続編をお願いしたいところであります。


『ばけたま長屋』(輪渡颯介 角川書店) Amazon
ばけたま長屋

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