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2015.03.07

『お江戸の百太郎』 「過去」から「現在」に甦った少年探偵

 那須正幹といえば、私は『ズッコケ三人組』直撃世代なのですが、それよりやや遅れてスタートしたのが、児童向け捕物帖シリーズ『お江戸の百太郎』であります。本作はその第1作目、実に約30年前に発表されたのがこの度ポプラポケット文庫で刊行されたものであります。

 主人公の百太郎は、本所・亀沢町に、岡っ引きである父・大仏の千次と二人で暮らす12歳の少年。普段は浪人・秋月精之介先生の寺子屋に通っていますが、ひとたび事件があれば、大人顔負けの推理力と行動力で、解決に乗り出すお江戸の少年探偵であります。

 実は父の千次は、なりは大きく性格も温厚で周囲から好かれる人間ながら、捕り物の腕はからっきし。かくて父に代わって百太郎が頭を働かせ……というのは、なるほど児童書的かもしれませんが、これはこれで納得できる設定です。

 そんな百太郎の活躍を描くシリーズ第1弾たる本作は、全4話から成る短編集。
 商家のお嬢ちゃんの誘拐事件に始まり、金貸しの婆さんの幽霊が借金の催促に回るという怪事件、質屋の厳重に守られた蔵から旗本の家宝が消えた事件、百太郎と同年代のさる大名のご落胤を巡る御家騒動と、なかなかにバラエティに富んだ内容であります。

 お話の謎解き自体はさすがにシンプルではありますが(しかし、幽霊事件の真相など、おっと思わされる部分も幾つもあり)、しかし子供向きだからといって手を抜いた部分は皆無と言ってよいでしょう。

 何よりも時代ものとしてもきっちりとした描写が為されているのは、これは当然とはいえ、下手をすると一般向けの作品――特に漫画など――でもできていなかったりする――髪型と一本差し・二本差しと元服の関係など――だけに、大いに嬉しい話であります。
(時々現代語が台詞に混じるのは、これは現代語に翻訳されているということで……)

 もちろん、それだからといってうんちくだらけになれば子供は飽きてしまうところですが、そうならない絶妙なところで描写を留め、物語に巧みに絡めて自然に江戸時代の文化風俗を描くのは、これはやはりベテランならではの技でありましょう。
 おそらくは読者にとって生まれて初めての時代ものとなることを考えれば、この配慮はお見事、と言うほかありますまい。


 さて、私事で恐縮ですが、私は小さい頃、「少年探偵」に憧れておりました。もともと謎解き話が好き、ということもありますが、やはり当時周囲にあった本の中に、「少年探偵」ものと言うべき作品が様々にあり、自分もこんな風に活躍できるかも、と思わせてくれたことも大きいでしょう。

 しかし「少年探偵」という存在は、現代においては、たとえフィクションの中であっても、リアリティを持った存在として成立しにくいものであることは言うまでもありません。
 それはたぶんいま日本で一番有名な少年探偵も、表立っての行動の際には別人の陰に隠れざるを得ないことからもわかるでしょう。

 そんな少年探偵を、本作は復権させた――というのはもちろん大げさにもほどがあるわけですが、しかし「過去」を舞台とすることで、「現在」に「少年探偵」をさまで違和感なく活躍させてみせたのは間違いありますまい。

 それが実に30年ぶりに本作が復活した理由である、とまで言うつもりはありませんが、しかし30年前に発表された作品が、今になっても全く古びたものとして感じられず、そして子供時代の自分を思い出しつつ楽しめたことだけは、間違いありません。


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お江戸の百太郎 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級~)

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