« 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『半七捕物帳リミックス!』 人物描写を増した名作リライト »

2015.03.16

『幕末愚連隊』 カッコいいだけでも、悲惨なだけでもない幕末

 幡大介といえば、『大富豪同心』といったユーモア色も強い文庫書き下ろし時代小説が浮かびますが、本作はその作者が単行本で初めて挑んだ幕末もの歴史小説。しかし中心になるのは、まさにタイトル通りの無頼漢ばかりが集まった衝鋒隊と、凡手を嫌う作者らしい快作であります。

 衝鋒隊とは、徳川幕府の陸軍歩兵隊を元にした部隊ですが、そこに参加した者の中心となったのは、不景気で食い詰めた火消し、ヤクザ、相撲取りなど、正規の武士ではないものたちばかりであります。
 それでも飯が食えて徳川さまのために戦えればいいと訓練に勤しむ隊員たちですが、しかし当の将軍は鳥羽伏見で惨敗するや配下を捨てて逃走、恭順の意を示して江戸開城を決めてしまう始末。

 鳥羽伏見の敗残兵を加えた歩兵隊はこれに反発して江戸を脱走、歩兵差図役頭取・古屋佐久左衛門を頭に戴き、半ば厄介払いの形で新政府軍と戦うべく、戦場を渡り歩くこととなります。
 元がならず者ばかりの隊だけに、勢いづけば強いものの、崩れだしたらあっという間の衝鋒隊。しかし負けても負けても立ち上がるしぶとさと、実戦を重ねての練度は幕府方・新政府方を通じて屈指の彼らは、やがて奥羽越列藩同盟の一翼を担うまでになるのですが……


 そんな衝鋒隊の破天荒な暴れぶりを、失業して隊に加わった気弱な力士・利助の視点から描く本作から浮かび上がる幕末の姿は、衝鋒隊の性格が示すように、単純な、一面的なものでは決してありません。
 そう、最近の流行りの言葉で言えば「草莽」の士が活躍するカッコいいばかりの幕末像でもなく、敗者となって辛酸をなめた者の側に立った悲惨なばかりの幕末像でもなく――言い換えれば幕府側と新政府側のどちらかが善で悪で、加害者で被害者でといった見方を拒否した作品であります。

 実際のところ、本作に登場する連中は、その大半が――衝鋒隊に限らず、幕府の、薩長の、あるいは奥羽越の諸藩の武士たちも含めて、ろくでなしとしか言いようがありません。
 もちろん、(命令・作戦の部分もあったとはいえ)嬉々として戦場となった町や村で略奪を繰り返す衝鋒隊のろくでなしぶりは言うまでもありませんが、しかしいわば正規軍の侍たちも、またベクトルの異なる酷さを見せます。

 幕府につくか新政府につくか右往左往する者、親藩譜代であってもあっさり新政府につく者、和平のための捨て駒として衝鋒隊らを使う者、戦闘に当たり自らの領民を平然と踏みつけにする者……
 その行動が招いた、あるいは拡大した被害の重さを指して「罪」という表現は適切ではないかとは思いますが、敢えて使うとすれば、その罪は衝鋒隊よりも遙かに重いものであり――そしてそれは幕府方・新政府方、勝者・敗者で異なるものではありません。

 そして本作はその「罪」の存在を、草莽どころか雑草である衝鋒隊の野放図な暴れぶりを通じて、声高ではなく皮肉混じりに、しかし容赦なくえぐり出すのであります(特に、会津藩の行動に対して向けられた皮肉な眼差しの鋭さよ)。
 本作がカッコよいだけでもなければ悲惨なだけでもない、と述べたのは、この点によります。


 そのある意味実に作者らしい、しかしきっちりと歴史小説としてモディファイされた視点は大いに評価できるのですが、あえて厳しいことを言えば、そちらに力が入ったために、利助ら衝鋒隊のキャラクターが、物語で十全に動かされていなかった、という印象はあります。

 特にある人物の存在と、終盤に描かれる彼の行動は、上に述べた衝鋒隊と侍たちの相克を、物語上で象徴し、そして乗り越える可能性があっただけに、実に勿体ない……とは感じました。

 もちろん、冒頭に述べたとおり、作者にとってはこれが歴史もの第一作。本作で見せた鋭い切れ味に、これまで培ってきたキャラクター性・物語性が加われば、この先どれほどのものが生まれるか――それは、大いに期待すべきものでありましょう。


『幕末愚連隊』(幡大介 実業之日本社) Amazon
幕末愚連隊

|

« 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『半七捕物帳リミックス!』 人物描写を増した名作リライト »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61286771

この記事へのトラックバック一覧です: 『幕末愚連隊』 カッコいいだけでも、悲惨なだけでもない幕末:

« 4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 『半七捕物帳リミックス!』 人物描写を増した名作リライト »