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2015.03.17

『半七捕物帳リミックス!』 人物描写を増した名作リライト

 創刊当初からユニークな作品が多いレーベルとして強く印象に残っている白泉社招き猫文庫ですが、今月の新刊の中である意味特に印象に残ったのが本作『半七捕物帳リミックス!』。言わずとしれた岡本綺堂の名作から五編をリライトした作品集であります。

 『半七捕物帳』については、くだくだしく言うまでもないかとは思いますが、いわゆる「捕物帳」の嚆矢である連作シリーズ。1917年の第一作『お文の魂』から始まり、以来約20年間にわたり、計69作品が発表されております。
 このシリーズ、明治時代に若き新聞記者の「わたし」が老半七を訪ね、江戸時代後期・末期に半七が携わった事件のことを聞き書きするというスタイルで、物語としての面白さはもちろんのこと、江戸風俗・文化の描写も、見事と言うほかありません。

 個人的には、捕物帳の元祖にして極めてしまった……というのもあながち誇張ではない、と感じているところであります。

 その原典をリライトした本書に収録されているのは半七の一番手柄を描いた実質デビュー作の『石灯籠』をはじめとして、『あま酒売』『雪達磨』『熊の死骸』『女行者』の全五編。
 執筆順では二番目の『石灯籠』を除けば、残り四作はほぼ同時期の中期に当たる作品であります。


 さて、その内容の方ですが――これは完全に原典に忠実なので面白いのは当たり前、その意味で評価が難しいのですが、ではリライトされた部分は、といえば、それは簡単に言えば当時の事件・風俗に関する説明の補足と、そして人物描写であります。

 前者は、例えば『熊の死骸』の冒頭で、「永代橋の落ちた時に刀を抜いて振りまわしたのと同じような手柄」という表現があるのに、その具体的な内容を説明している部分。
 これは本レーベルが、比較的時代ものに馴染みが薄い層を対象としていることが大きいかと思いますが、執筆年代的にはある意味当然の知識であった部分が、現代においては異なっていることを考えれば、これは自然な補足と言うべきでしょう。

 その一方で、後者については、よりリライトと言うべき内容となっております。
 元々、人物描写については必要最小限であった原典ですが、その描写をよりかみ砕くとともに、箇所によっては本作独自の解釈を加えている部分も散見されます。

 例えば『石灯籠』で、原典では
「小柳は白い仮面をかぶったような厚化粧をして、せいぜい若々しく見せているが、ほんとうの年齢はもう三十に近いかも知れない。墨で描いたらしい濃い眉と、紅を眼縁にぼかしたらしい美しい眼とを絶えず働かせながら、演技中にも多数の見物にむかって頻りに卑しい媚を売っている。」
という表現が、こちらでは
「だが半七の目は、おしろいで塗りこめたその下に、疲れた顔が潜んでいることを見てとった。墨で描いた眉と、紅をぼかした瞼と切れ長のよく動く小柳の目に、観客の目は釘づけだったが……その下の顔は三十に近いと見た」
となっているように――

 この辺りは賛否が分かれる部分かとは思いますが、少なくともリライト、リミックスを謳うのであれば、これはありではないでしょうか。
 その他、原典はこちらも最小限だった各話冒頭と最後の「わたし」と半七老の会話も、かなりアレンジされているのがユニークなところであります。


 と、個人的にはなかなか楽しめた本書ですが、一つ気になったのは、作品のチョイス。
 先に述べた通り最初の事件である『石灯籠』はわかるとして、半七の名作ということで選ぶのであれば、もう少し違うラインナップになるのでは……という印象は正直なところあります(怪奇性・伝奇性の強い『あま酒売』は個人的には好きな作品なのですが)。

 もちろん、『雪達磨』は起きた事件の奇怪さが、『熊の死骸』は大火と熊(これは史実ですが)という取り合わせの面白さが、『女行者』は幕末という世相とのリンクが、とそれぞれに特徴(『あま酒売』はすぐ上に述べたとおり)があるため、それなりに納得はいくところではありますが――

 なかなかにユニークな企画であるだけに、もし次回作があるのであれば、あの作品を、この作品を入れて欲しい……と勝手に想像して楽しんでいるところであります。


『半七捕物帳リミックス!』(五十嵐佳子&岡本綺堂 白泉社招き猫文庫) Amazon
半七捕物帳 リミックス! (招き猫文庫)

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