« 『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』第1巻 艶やかに、異常に駆ける外道剣士たち | トップページ | 『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第2巻 自分自身になるための彼女の戦い »

2015.03.20

『くるすの残光 天の庭』 神と人間、歴史と世界の先の救い

 庭造りを学ぶため、荘介とともに安芸に向かった寅太郎だが、時同じくして天海もまた安芸に向かっていた。切支丹のみならず古き神を奉じる者たちを滅ぼさんとする天海は各地を襲撃、古の力を宿す神器を狙っていたのだ。海の民と出会った寅太郎は、共通の敵である天海と厳島で対峙するが――

 島原の乱を生き延び、天草四郎の遺志を継ぐ修道騎士たちと、四郎から奪った七つの聖遺物を操り切支丹抹殺を狙う南光坊天海らとの死闘を描く『くるすの残光』シリーズもこれで第4作目。
 これまで様々な者たちを操って主人公たる寅太郎たちを苦しめてきた天海がついに討って出ることとなります。

 江戸での表の顔である植木職人として、安芸広島藩江戸屋敷の庭造りを任せられることとなった寅太郎。安芸広島藩に招かれた寅太郎は、萩に仕官することとなった同志・荘介とともに旅に出ることとなります。

 しかしその途上に同じ船に乗り合わせることとなったのは何と天海。向こうはこちらを知らぬものの、息詰まる時間を過ごす寅太郎たちですが、天海の狙いは切支丹ではなく……


 これまで切支丹を滅ぼすべく、切支丹の秘法・秘蹟を用いてまで襲ってきた天海。しかし今回明確に描かれるのは、彼が敵とするのは切支丹だけではなく、徳川幕府の威光に従わぬ神を奉じる全ての者たちだということであります。
 なるほど、天海といえば、東照大権現という神を奉じることで、徳川家の、徳川幕府の威光を、形而上の世界でも固めた人物。そんな天海が、切支丹の神でなくとも、「徳川」という神以外の神を認めるはずもありますまい。

 しかし、彼の戦いは、単に信徒弾圧というレベルでなく、神そのものとの戦いにまで繋がっていくこととなります。
 海底に潜む竜神、山中の結界に潜む蜘蛛神――文字通り神代の昔から生き延びてきた古き神を、天海は滅ぼし、その力を掌中に収めんとするのであります。
(実に本作のもう一人の主人公は、この天海と申せましょう。そのために寅太郎たちの影が薄くなっていることは、本作の弱点とも感じますが……)

 そしてこの天海の姿を見るとき、私はある馴染み深き構図を思い出します。そう、それは作者の描く他の(ファンタジー色の強い)物語――『僕僕先生』や『千里伝』のような、(古き)神々と人間たちの物語のそれと、よく似通っているのです。

 これまで本シリーズは、切支丹の弾圧の歴史という、ある意味我々にとって(比較的に)馴染みのある物語を描いてきました。馴染みがあるということは、それだけ現実に近いということでもあり――そこに「神」という存在は、比較的薄かったように感じられるのです(そしてそれは本シリーズの弱点でもあったのですが)。

 しかし本作においては、他の神々の存在を描くことにより、この『くるすの残光』もまた、神と、それを信じる者、抗する者の物語であったことを浮かび上がらせます。
 そして神という存在が、見方を変えれば世界の「法」であり、また世界観そのものであることを考えれば――本作は異能者のバトルを通じ、歴史の節目における世界の変貌を描いてきたのだとわかります。

 しかし、他の作品がそうであるように、本作もまた、そのパラダイムシフトを単純に賛美するものではありません。いや、作者のまなざしは、そこからこぼれ落ちる者たち――古き世界で平穏に暮らしてきた個々人にこそ向けられ、彼らに救いを与えようとするのであります。

 そして寅太郎たち修道騎士たちは、その救いのために戦いを繰り広げる者たちでありますが……しかし、本当に救いの道は戦いの先にしかないのか? 本作で寅太郎に託されたものは、おそらくその答えであり――そしてそれは、彼の能力「種」が象徴しているのではありますまいか。


 おそらくこの『くるすの残光』も残すところはあとわずか。物語の先に、神と人間と――歴史と世界の交わり、変わりゆく先に救いはあるのか。その答えが描かれるのも、それほど遠いことではありますまい。

『くるすの残光 天の庭』(仁木英之 祥伝社) Amazon
くるすの残光 天の庭


関連記事
 「くるすの残光 天草忍法伝」 辿り着いた希望の種
 「くるすの残光 月の聖槍」 時代から外れた異人たち
 「くるすの残光 いえす再臨」 激突する神の子と神の子

|

« 『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』第1巻 艶やかに、異常に駆ける外道剣士たち | トップページ | 『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第2巻 自分自身になるための彼女の戦い »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61293074

この記事へのトラックバック一覧です: 『くるすの残光 天の庭』 神と人間、歴史と世界の先の救い:

« 『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』第1巻 艶やかに、異常に駆ける外道剣士たち | トップページ | 『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第2巻 自分自身になるための彼女の戦い »