『秘密 蘭学塾幻幽堂青春記』 彼らの乗り越えるべき壁、駆け抜ける風景
ある日玄遊堂を訪ねてきた若者・慶の目的は、義兄である中村だった。しかし慶と反発した中村は塾を飛び出してしまう。折しも京では若い医師によるある事件が続き、慶が、そして玄遊までもが新選組に捕らわれてしまう。師を、級友の家族を救うため奔走する八重太たちだが、事件は思わぬ方向へ……
幕末の京を舞台に、変人ばかりの蘭学塾・玄遊堂に集った若者たちの姿を、怪異な事件を交えて描く『蘭学塾幻幽堂青春記』シリーズ、待望の第4弾であります。
前作でついに登場し、主人公・八重太とある因縁があることが描かれた新選組。本作においても、新選組の存在は、玄遊堂の面々と意外な形で絡んでいくこととなります。
さて、これまで基本的に各巻で一人ずつ、ある塾生を中心に据えて描かれてきた本シリーズですが、今回中心となるのは、塾の名物男・中村。
学問そっちのけで、「正義」と称してあちこちで喧嘩をふっかけて回るという問題児で、生真面目な八重太にとっては頭痛の種であります。
ある日その中村の前に現れた、彼を義兄と呼ぶ若者・慶。しかし何やら複雑な仲であるらしい慶の登場に、中村は塾を飛び出し、とんでもないところに転がり込んでしまいます。
さらにアクシデントは続き、慶がある疑いをかけられて新選組に捕らわれ、さらに掛け合いにいった玄遊堂の主・玄遊までも拘束を受ける羽目に。実は京では、阿片の密売が密かに行われ、その実行犯は若き医師だと言うのであります。
もちろんこんな事態に塾生たちが黙っていられるはずもなく、それぞれ行動を開始。八重太も、同郷の知人であり何かと因縁のある沖田総司や、謎の女占い師・結の助けを得ようとするのですが……
これまで同様、塾生たちの過去と、それが現在にもたらした影響を中心に回っていく本作。
これまでのシリーズでは、そこに人を凶行に駆り立てる赤い煙や天狗、異界の辻など、古都ならではの(?)怪異が絡んできましたが、本作ではその度合いは低めで、むしろ現実的な――というより俗な事件が展開していく印象があります。
しかし、それで本作の面白さが損なわれるかと言えば、否であることは言うまでもありません。
八重太たちにとって、目の前の壁となるものは、それが怪異だろうと過去の因縁だろうと、市井の悪人だろうと新選組だろうと(!)変わることなく、ただ乗り越えるのみ、なのですから……
そんな虚実入り乱れた中を駆け抜ける彼らの姿は、あるいは荒唐無稽に――現実感に乏しく――見えるかもしれません。
しかしたとえどんな環境であろうとも、相手が誰であろうとも、怖いもの知らずの勢いで突っ走るのはいつの世も変わらぬ青春の特権でありましょう。そしてそんな中で、虚実をその別なく等価に受け止める態度は、むしろリアルであるとすら感じられます。
個人的な好みで言えば、前作に比べると、新選組が物語に絡んでいるようで比較的絡んでいない(特に結末に描かれるある事件の扱いなど)ように感じられる点が少々物足りないのですが、その距離感もまた、リアルと言うべきかもしれません。
先に述べたとおり、彼らにとっては新選組も乗り越えるべき壁、駆け抜ける風景なのですから……
しかし、そんな中でも、物語は少しずつ動き、変化を見せていきます。
これまで幾度となく八重太の前に現れた不吉な――彼を待ち受ける別離と悲嘆を予感させるヴィジョン。本作の結末は、そのヴィジョンが一歩、現実に近づいたことを思わせるものでもあります。
とはいえ「学校」とは、いつか必ずそこを巣立つもの。あくまでも青春の一時そこに集う場所(もっとも本シリーズの場合、必ずしもそうは言えないのがまた……)
別れの先にあるのは悲しみだけではない。本作の結末に描かれたそれを信じて、この先の物語を待ちたいと思います。
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