『からくり探偵・百栗柿三郎』 またも大ドンデン返しの大正ミステリ
大正時代の東京を舞台とした『帝都探偵謎解け乙女』でこちらの度肝を抜いてくれた伽古屋圭市の新作であります。こちらも舞台は大正時代、前作との繋がりはありませんが、今回もちょっとユルめのキャラクターと本格派の謎解き、そして……と、こちらの期待を裏切らぬミステリであります。
タイトルロールの柿三郎は、浅草の外れにあるボロ家・百栗庵の主で発明家……を自称する一種の変人。日がな一日、なにやらおかしなからくり仕掛けをいじくり回している彼のもう一つの顔は探偵、なのであります。
「よろず探偵 人探しも承り」の看板を掲げる柿三郎は、依頼があらば機械式招き猫(!)の助手・お玉さんと、押し掛け女中の千代とともに、颯爽と事件解決に乗り出……さない。
依頼人が訪れてもなかなかやる気を出さず、千代に半ば尻を叩かれるようにしてようやく重い腰を上げるやる気のなさですが、しかしその探偵としての実力は本物。科学的調査法と、何よりも明晰な頭脳による論理的な分析から、次々と怪事件を解決していくのです。
そんな柿三郎の活躍を描いた本作を構成するのは、四つの短編と、その合間に差し挟まれたある情景。
完全な密室で「ホムンクルス」に殺害されたとしか思えぬ死体となって発見された博士。
場所こそ違え、一ヶ所にまとまって連続して発見されたバラバラ死体たち。
透視や瞬間移動を操るという幻術師の下から姿を消した青年。
そして、何者かに両親を殺されるという惨劇を目撃した後、自らも何処かへ消えた少女。
いずれも怪事件、難事件と称するに相応しい事件でありますが、面白いのはこれらの事件が、いずれもこの時代ならではの――裏を返せば、この時代だからこそ成立する――ものであることでしょう。
江戸明治ほど法制度・捜査法が確立していないわけではなく、しかし現代ほど科学捜査や情報網が確立しているわけではない。本作で描かれるのは、そんな時代だからこそ成り立つ、一種時代の隙間をくぐり抜けるような事件の数々なのであります。
そんな事件たちを、時にトリッキーな手段も用いつつ、ロジカルに解き明かしていくミステリとしての面白さは言うまでもありませんが、本作に更なる魅力を与えているのは主人公たちの個性にあります。
探偵の看板を掲げながらもやる気なく、周囲に無頓着なようで鋭い観察眼を持ち……と、矛盾したような顔を持つ柿三郎。そんな彼の助手兼ツッコミ役兼語り手として、テンポよく、かつユーモアたっぷりに物語を進めていく千代。そして行動はいまいち不自由ながら、ほとんどオーバーテクノロジーな便利さを見せる機械仕掛けのお玉さん。
冒頭に述べたようにちょっとユルい面々の活躍は、意外に凄惨な事件も少なくない本作のムードを明るく、親しみやすいものとしているのです。
が――本作の最大の魅力は、最後に待ちかまえています。
『帝都探偵謎解け乙女』において、最後の最後にとんでもないドンデン返しを用意していた作者。その作者の作品であれば今回も……と期待してしまうのが人情ですが、それはもちろん、裏切られることはありません。
その内容については一切触れられませんが、(それまでの事件においてもそうであったごとく)何の気ない言葉が、描写が後になって全く違った意味を持って立ち上がってくるという一種のダイナミズムには、ただただ「やられた!」と思わされるばかり。
幕間に描かれる情景――あの大正最大の災害直後の世界も意味深に描かれてきただけに、まんまと一杯食わされた、という印象であります。
しかしもちろん、それは全くもって望むところ。いやそれこそが作者に求めるものであり――
毎回考えるのはどれだけ大変なことかとちょっぴり申し訳なく思いつつも、次回はどんな仕掛けで驚かせてくれるのか、と今から楽しみになろうというものなのです。
『からくり探偵・百栗柿三郎』(伽古屋圭市 実業之日本社文庫) Amazon

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