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2015.04.28

戸土野正内郎『どらくま』第1巻 武士でなく人間として、大軍に挑む男たち!

 大坂夏の陣から一年、豊臣方の鳳家の隠れ城を、徳川方の兵が包囲する。敵の策に城と幼い姫の運命は風前の灯火――と、その場に居合わせたのは、謎の武器商人・真田源四郎と彼の宿敵の戸隠忍者・九喪。姫を救うことを請け負った二人に率いられた百余人の老兵と、二千の傭兵たちとの決戦の行方は?

 恥ずかしながら連載時には全くノーチェックでありました本作、単行本化を機に手に取りましたが、これが実に痛快な時代アクション活劇でありました。

 物語の幕開けは大坂夏の陣、いずれも一癖ありげな二人の若者が、炎に包まれる大坂城で対峙する場面。しかし二人の戦いは炎の中で痛み分けに終わり、次に二人が顔を合わせることとなったのは、戦いの一年後、雪深き美濃山中は鳳家の隠れ城でありました。

 莫大な黄金を持ち、その力で傭兵集団を差配してきた鳳家も、頼みとしてきた豊臣家の滅亡で斜陽の一途。
 跡取りである勇那姫を奉じて再起を図る彼らに、間者扱いされたのが件の若者たち――武器商人のはずが一言多い真田源四郎と、ある目的で城に忍び込んだ忍びの九喪であります。

 二人がまさに処刑されんとした時、城に襲来したのは、鳳家最強を謳われた傭兵部隊・百鬼隊を率いながらも、部下ごと徳川に寝返った百鬼死門。彼の奸計により城内に残るは、源四郎と九喪、かつて死門の部下であった捻り鉄棒を操る豪傑・大獄丸を除けば老兵たちのみ……

 絶望的な状況の下、百鬼隊を倒し、姫を守ることを請け負ったのは源四郎と九喪。その価は老兵たちの命――ここに、百余人対二千人の死闘が始まることに相成るのでした。


 ご覧のとおり、簡単に言ってしまえば架空の地を舞台にした架空の家の架空の戦いである本作。
 個人的にはそうした作品はあまり得意ではないのですが、しかし本作の前にはそんなつまらぬこだわりはあっさり消えてしまったのですが――それはひとえに本作のシチュエーション作りの巧みさと、そしてそのシチュエーションの熱さに尽きます。

 寡兵対多勢の戦い、それも奇策を用いての籠城戦とくれば、どうしたって前者を応援したくなるもの。しかもそこに味方するのが、正体不明ながらも途方もなく腕の立つ流れ者――それも宿敵ながら、ひどく息のあったところを見せる奴ら――とくれば、盛り上がるばかりであります。

 しかし本作の魅力はそれに留まりません。本作最大の魅力、それは彼らの、そして城に残された役立たずの老兵たちの戦う理由にあります。
 彼らの戦う理由、それはお家存続や忠義心といった大義名分などではなく、ただ、戦に巻き込まれた一人の少女を守り、救うこと――

 実はここには本作の最大の仕掛けがあるため、詳しくは述べられないのが残念ですが、ここで彼らが守ろうとするのは、本当に彼らにとっては縁もゆかりもない、武士の理屈で言えば守る意味もない相手。
 しかしそんな彼女を救うため、ただそれだけのために人間として大軍に挑む、命を投げ出す男たち――男泣き必至のシチュエーションであります。

 アクションに止め絵が多用されているのと、用いられる策がある意味単純明快に過ぎるのはひっかからないでもありませんが、しかしこの戦う理由の前には小さい小さい。
 忠義や大義といった建前の前に命が消耗され尽くした時代が終わった直後に、新たな戦いの理由を示してみせた男たちの戦いはただ痛快であります。


 さて、本作のタイトルの意味は、おそらくは「ドラクマ」、古代から使われたギリシアの通貨でありましょう。
 このドラクマ――正確にはその1/6の価値のオボルスは、冥界の川の渡し賃であったとか。つまり本作のタイトルは、冥界の川の渡し賃六枚の意なのです。

 そして本作の主人公の一人は、洋の東西の違いはあれ、それと同じものを旗印にした一族と同じ姓を持つ者。
 果たして彼が、彼らが何者なのか……一つの戦いを終えた彼らの、次なる戦いの中で、それが語られるのでありましょうか。それも楽しみであります。


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