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2015.04.26

末國善己『読み出したら止まらない! 時代小説 マストリード100』

 それなりに出ているようでいて、SFやミステリといった他ジャンルに比べるとやはり少ない印象のある時代小説のガイドブック。そんな中で、新たな一冊が刊行されました。末國善己『読み出したら止まらない! 時代小説 マストリード100』であります。

 タイトルからお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、本書は、杉江松恋『海外ミステリー マストリード100』、千街昌之『国内ミステリー マストリード100』の姉妹編とも言うべき一冊であります。

 内容的には二部構成ですが、その大部分を占める第一部が「マストリード100」。タイトルの通り、現在入手可能な時代小説で、読むべき百作品を一作家一作品ずつ取り上げ、解説を加えたもの。
 一作品の紹介は、さらに「あらすじ」、作品や作者の関連情報や読みどころを記した「鑑賞術」、そして同じ作者や同じジャンルの作品等を紹介する「さらに興味を持った読者へ」から構成されております。

 さて、こうしたガイドブックでは、まず作品のチョイスが最も気になるところなわけですが、個人的には「なるほど!」と「こうきたか!」が半々という印象。

 これはある意味当然のお話で、20年くらい前までの作品になればほぼ鉄板と言いましょうか、チョイスは衆目の一致するところであります。
 一方、最近の作品になればなるほど、まだ評価が定まっていない……というのは言いすぎかもしれませんが、同じ作家でも何が代表作か、というのは意見が分かれるところでありましょう。

 そんなこともあっての「こうきたか!」なのですが、しかしこれが新鮮で面白い。
 本書で取り上げられた百作品百作家を全て読んでいるわけでは、恥ずかしながらないのですが、それだけ楽しみが多いということでしょう。


 しかし個人的には本書の最大の読みどころは「鑑賞術」の項であります。先に述べた通り、作品の読みどころ等に触れた項ですが、ここに本書の著者である末國氏の持ち味が最も良く表れているのです。

 時代小説に限らず、様々なエンターテイメント小説の解説を手がけている氏ですが、その解説の多くに共通するのは、作品の内容や執筆背景を、現在の社会情勢と絡め、対比して語ってみせる点であります。

 それは本書にも共通してあり、必ずしも紹介された全作品で述べられているわけではありませんが、しかし数多くの作品に通底するこの視点は、本書を末國氏ならではのものとしている点であり――そしてそれこそが、本書の読みどころの一つであると、私としては感じるのであります。


 なお、第一部に比べれば頁数的には少ないのですが、本書の第二部「さらに楽しい読書のすすめ」も必読。

 「古典的な名作と戦前・戦後の作家たち」と「新しい時代の時代小説作家たち」とさらに二部に分かれるこのパートでは、第一部で取り上げられなかった作家――現在では作品の入手が難しい作家、あるいは惜しくも百作品に含めることができなかった作家――を取り上げているのですが、これが一種の通史として楽しめるのであります。

 特に後半は、21世紀に入ってからの新人やジャンルの越境、文庫書き下ろし等々、現在に至るまで、概括して語られたことが存外に少ない部分であり、実に興味深く、第一部に並び必読の内容であります。


 文庫としては少々価格は高めではありますが、それだけの価値はある一冊でありましょう。

『読み出したら止まらない! 時代小説 マストリード100』(末國善己 日経文芸文庫) Amazon
読み出したら止まらない! 時代小説 マストリード100 (日経文芸文庫)

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