« 中谷航太郎『シャクシャインの秘宝 秘闘秘録 新三郎&魁』 自由の民の戦い、完結! | トップページ | 堀川アサコ『大奥の座敷童子』 賑やかな大奥の大騒動 »

2015.04.30

風野真知雄『猫鳴小路のおそろし屋 2 酒呑童子の盃』 奇譚という名の「真実」たち

 江戸は猫鳴小路で、謎めいた女主人・お縁がひっそりと営む骨董商・おそろし屋。この店に集まる、歴史上の人物に関する品物に込められた曰く因縁が語られる連作シリーズの第2弾であります。今回は戦国時代から江戸時代、果ては平安時代まで、物語は様々な時代を飛び回ることとなります。

 かつて大奥におり、勘定奉行や老中とも面識があるという謎の女性・お縁。彼女が江戸で開いたおそろし屋は、店は小さいが置いてあるのは逸品揃いの、知る人ぞ知る名店であります。
 そんな店で、数少ない常連相手にひっそりと商いを続ける彼女の手元に集まるのは、歴史上の有名人にまつわる品物――それも、史実に隠された意外な「真実」にまつわるものばかり。本作は、店を訪れた客に対し、彼女がその奇譚という形の「真実」を語るスタイルで描かれていきます。

 この第2巻に収録されているのは全4話――
 本能寺で光秀に討たれたはずが、死体が見つかっていない信長が集めた茶道具の一つである茶筅。
 天下人秀吉のもとに忍び込み、後に捕らえられて釜煎りされた石川五右衛門が盗んだという黄金の釜。
 赤穂浪士を率い、首尾良く主君の仇を討ったはずの大石内蔵助の悔恨が込められたという扇。
 都を騒がせ、源頼光に討たれたという大江山の鬼「酒呑童子」の真実と、その背後の複雑怪奇な人の想いが隠された盃。

 活躍した時代も場所も全く異なる4人にまつわる物語は、いずれも歴史の陰に隠された真実という伝奇的な趣向と、その中に浮かび上がる人の――有名無名を問わない――悲喜こもごも、様々な心の動きが印象に残ります。

 元々、ユーモラスな物語の中に、人の生にまつわる寂しさや切なさといった機微や弱き者たちへの共感、そして強き者への皮肉なまなざしを含んだ作品を得意としている作者。
 本作はそんな作者が、様々な時代で融通無碍に物語を展開することにより、持ち味を存分に発揮していると言えましょう。

 ことに表題作である『酒呑童子の盃』は、平安という時代背景を描きつつ、権力を求める人間の醜さ(と、それと背中合わせのもの悲しさ)、彼らによってねじ曲げられていく真実という、いつの時代も共通する物語を描き出しているのが印象的であります。
(そしてこの他にも、作者が「今」に向けるまなざしを感じさせる箇所が諸処に……)


 もっとも、やはり短い中で物語を展開させ、さらに歴史上の有名人のキャラクターを描き出すために、デフォルメを効かせた、極端な描写が多くなっているのは、好みが分かれるところかと思います。
(特に今回は作者の作品には珍しく、下世話な方向の題材が多いだけに)

 また、本作のもう一つの特徴、全編を貫く縦糸である、お縁自身の物語――大奥にて何かの秘密を知ってしまった彼女に迫る奇怪な刺客と、彼女を守る剣士との戦いも、今回かなりあっさり目の扱いなのも、残念なところであります。

 隠された「真実」を語ってきたお縁が、彼女自身が隠す「真実」によって命を狙われるという皮肉――何やら江戸、いや東京の存在にも関わる秘密らしいだけに、もっともっと煽ってくれてもよいのに……というのは贅沢の言い過ぎかもしれません。

 それでももっともっととねだりたくなるのは、本シリーズの構造が、そこで描かれるものが魅力的であるからにほかならないのですが。


『猫鳴小路のおそろし屋 2 酒呑童子の盃』(風野真知雄 角川文庫) Amazon
猫鳴小路のおそろし屋 (2) 酒呑童子の盃 (角川文庫)


関連記事
 『猫鳴小路のおそろし屋』(その一) 時間と空間を超えて集まった奇譚たち
 『猫鳴小路のおそろし屋』(その二) 得体の知れぬその店の秘密は

|

« 中谷航太郎『シャクシャインの秘宝 秘闘秘録 新三郎&魁』 自由の民の戦い、完結! | トップページ | 堀川アサコ『大奥の座敷童子』 賑やかな大奥の大騒動 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61514874

この記事へのトラックバック一覧です: 風野真知雄『猫鳴小路のおそろし屋 2 酒呑童子の盃』 奇譚という名の「真実」たち:

« 中谷航太郎『シャクシャインの秘宝 秘闘秘録 新三郎&魁』 自由の民の戦い、完結! | トップページ | 堀川アサコ『大奥の座敷童子』 賑やかな大奥の大騒動 »