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2015.04.25

中谷航太郎『アテルイの遺刀 秘闘秘録新三郎&魁』 新たなる敵の驚くべき正体

 カムイの遷宮のため、北に向かう山の民。彼らと一旦離れ、御庭番の宮地から覇王のギヤマンを受け取った新三郎と魁、倭太李を、恐るべき技を持つ謎の一団が襲撃する。彼らの襲撃を逃れて北へ逃れる新三郎一行。果たして彼らは幾重にも張り巡らされた敵の包囲網を突破できるか……?

 全6巻のシリーズ『秘闘秘録 新三郎&魁』も、これでラスト直前の第5巻。数々の死闘をくぐり抜けてきた名コンビの物語の舞台は、この巻では北へ北へと移ろい、一種のロードノベル的な趣があります。もちろん、彼らの行くところ、たちまち屍山血河となるのですが……

 偶然かカムイの導きか、思わぬ形で将軍吉宗と知り合い、彼を狙う尾張の暗殺集団と死闘を繰り広げることとなった新三郎と魁、そして山の民たち。
 その褒美というべきか、これまで幾多の権力者が求めてきたという秘宝・覇王のギヤマンを吉宗から授かることとなった新三郎たちですが……しかしそれが再び、彼らを戦いに巻き込むこととなります。

 一度は山の民とすれ違いながらも、意外な巡り合わせで、再び山の民を追い、彼らに覇王のギヤマンを届けることとなった御庭番・宮地。
 しかし山の民の足跡を追って赴いた箱根山中――懐かしや、第1作の舞台であるヤマダチの砦で彼を待っていたのは、新三郎と魁、そして山の民の少年戦士・倭太李の三人のみ――実は山の民は、カムイのお告げに従い、彼ら三人のみを残して北に旅立っていたのでありました。

 そして久闊を叙するまもなく、新三郎や宮地たちは、彼らは謎の集団の襲撃を受けることとなります。
 商人・浪人・僧兵・狩人・そして覆面の巨人――一見全く統一感のない彼らですが、しかし共通するのは、覇王のギヤマンを狙うことと、そして彼らの多くが、魁を凌駕するほどの技の持ち主であること。

 かくて謎の敵集団の襲撃を逃れ、一族と合流すべく、ヤマダチの砦から脱出し、北方への旅を開始する新三郎一行。
 しかし、幕府御庭番である宮地の動きをも知る謎の敵は執拗に彼らに追いすがり、ついに奥州の山中で死闘が始まることに……


 というわけで、今回も繰り広げられる、弓と銃が入り乱れての大乱戦。前作はある意味山の民ベストメンバーという顔ぶれでしたが、本作ではわずか三人。
 もちろん一騎当千の顔ぶれですが、数倍する敵、それも先に述べたように実力も匹敵する相手が幾人もいるとなれば、苦戦は必死であります。

 特に魁と勝るとも劣らぬ気配察知の技を持ち、さらに火縄を使わぬ鉄砲を操る謎の巨人には、三人は散々苦しめられるのですが……
(しかしこの巨人の正体が、かなり早い段階で明らかになってしまうのがもったいない。敵そのものの正体にも繋がってくるだけに)

 が、苦戦するということは、彼らには悪いですが、読者にとっては、如何に彼らが窮地を脱するか、楽しみが多いということでもあります。
 毎回毎回、戦闘シーンのバリエーションの豊富さで驚かせてくれるこのシリーズですが、今回もその期待を裏切ることはありません。

 しかしそれ以上に本作で驚かされるのは、そして嬉しくなってしまうのは、戦いの末に明らかになる、敵――覇王のギヤマンを求める者の正体でしょう。
 ここで彼らを持ってくるか、ここまで話を広げるか! と言うほかない意外な相手を持ってこられたら、盛り上がるほかありません。

 本シリーズでは、基本的に主人公サイドは受け身で、自分たちを襲ってくる敵の正体もなかなかわからないことが大半なのですが、これまでの展開をミスリーディングに使ってきたこの仕掛けには脱帽です。


 そして、前作で個人的にいただけなかった、カムイのお導きによるストーリー展開は、今回新三郎チームが巫女チームと分かれたことで、ほとんど目立たなくなったのはよかった……
 と言いたいところですが、ラストで思い切りその辺りが復活してくるのにはただ残念。自由の民を描くはずの物語で、神の意志に人が動かされるだけと言ってしまうのはいかがなものか、と感じてしまうのですが、その辺りが今後ひっくり返されることがあるのか。

 その辺りにもかすかに期待しつつ、次巻、最終巻を手に取るのでした。


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