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2015.04.29

中谷航太郎『シャクシャインの秘宝 秘闘秘録 新三郎&魁』 自由の民の戦い、完結!

 敵の追撃を逃れ、山の民と合流したと思ったのも束の間、沈み行く御用船に捕らわれた新三郎と魁たち。かろうじて北の孤島にたどり着いた一行だが、覇王のギヤマンを狙う豪商・安芸屋一味はなおも執拗な攻撃を仕掛ける。巨大戦艦までも繰り出す相手に対し、新三郎と魁に打つ手はあるのか!? いざ決戦!

 というわけで、『秘闘秘録 新三郎&魁』もこの第6巻でついに完結であります。
 これまでも様々な形で弓と銃の大乱撃戦を描いてきたシリーズらしく、この巻は最初から最後まで、ひたすらピンチとアクションの連べ打ち。とてつもない規模の敵に対し、一冊丸々かけての大決戦であります。

 一族の守ってきたカムイを遷宮するため、北への旅を続けてきた新三郎と魁、そして山の民たち。しかしその途上で手に入れた秘宝・覇王のギヤマンを狙い、豪商・安芸屋が動き出します。
 魁に勝るとも劣らぬ戦闘とサバイバルのスキルを持つ刺客を向こうに回し、辛うじて勝利した一行は、同行する御庭番・宮地の助力で御用船に乗り込み、もう安心と思いきや……

 そこに潜んでいた裏切り者によって彼らは捕らわれ、沈みゆく船に閉じこめられることに。覇王のギヤマンとカムイの水晶、アテルイの遺刀――そして何よりも新三郎最愛の人・沙伎までもが奪われ、いきなりクライマックスであります。

 何とかこの危機を逃れたものの、迫るのは剽悍無比な海賊・虎丸率いる海賊衆を連れた安芸屋の本隊。さらに、魁以上の気配察知能力と火縄を使わぬ鉄砲で、これまでの旅路で散々に新三郎と魁を苦しめたロシア軍人・ロボコフもまた、戦士としての誇りを賭けて二人を狙います。

 島で意外な出会いがあったものの、この強敵の群れに対する味方は、十人にも満たない人数。かくて最後の、そして絶望的な攻防戦が始まるのですが……


 先に述べたとおり、これまでもバリエーション豊かに弓と銃による戦いを描いてきた本シリーズ。その量・質ともに、時代小説史上でも屈指と言えるであろう戦いの連続を締めくくる本作もまた、一切出し惜しみなしのバトルまたバトルであります。

 ひたすらに戦闘シーンが続けば普通は胸焼けがきそうなものですが、本作に限っては心配ご無用。
 あまりにも巨大な敵(クライマックスの「敵」のとんでもなさなど、もう半ば呆れながら拍手するほかないスケール!)相手に立ち向かう新三郎と魁、仲間たちの戦いの連続は、これまで同様作者一流の筆でもって、こちらの目と心を捕らえて離しません。

 前作までに気になったカムイのお導きも、絶望的な未来のビジョンを提示してみせることにより、その万能感を逆手にとった絶望感を煽ってみせるのが心憎いところであります。

 しかしそんな中でも本作最大の魅力は、そんな絶望的な状況の中でも減らず口を叩きあう新三郎と魁の友情であり、そして死闘を繰り広げる中で結ばれる、敵味方の怨讐を超えた共感であり――そんな男臭い世界観でありましょう。

 それは、軟弱で下劣だった新三郎の、男としての、人間としての成長の過程と重なる世界であり(まあ、新三郎の成長が早すぎた感はあるにせよ)、それがまた、ひたすらに繰り返される戦いの中でも、不思議な爽やかさを感じさせる所以でしょう。
 特にラスト、新三郎と魁と「あの男」が見せる、魂と魂の交流ともいえる姿は、まさに大団円ともいうべき本作の結末を飾るに相応しいものでしょう。


 これまでシリーズを引っ張ってきたカムイの遷宮が、結果的にずいぶんあっさりとした扱いになったことは否めませんし、やはり最後の最後まで便利な存在であった印象は残ります。

 そんな部分もありはするものの、本作で、本シリーズで描かれた熱い戦いの数々は、それを補ってあまりあるものでしょう。
 自由の民が繰り広げた、自由のための戦い――本作はそれを最後の最後まで描き切り、そして彼らが貫いた魂の尊さを、高らかに謳い上げてみせたのですから。


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