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2015.04.16

中谷航太郎『覇王のギヤマン 秘闘秘録新三郎&魁』 お告げが導く三つ巴の戦い

 忍者集団・土蜘蛛を殲滅し、なりゆきから将軍吉宗暗殺を阻止した新三郎と魁。江戸で山の民の一族と合流した二人の前に現れたのは、カムイの巫女である蝦夷のおばばだった。彼女の導きで江戸を騒がす凶盗一味と戦うこととなった一行は、やがて将軍家の秘宝にまつわる戦いに巻き込まれることに……

 全6巻のシリーズもこの第4巻で後半戦に突入の『秘闘秘録 新三郎&魁』。今回の舞台となるのは、シリーズには珍しい街――それも江戸であります。

 執拗に山の民を狙ってきた凶悪な忍者集団・土蜘蛛の隠れ里での死闘の末、彼らの大半を斃し、江戸に向かった残党をも殲滅した新三郎と魁。その決戦が、土蜘蛛が将軍吉宗を暗殺せんとしたタイミングであったため、図らずも将軍吉宗の命の恩人となった二人ですが、もちろんそれに拘る彼らではありません。
 そもそも彼らの目的は、隠れ谷からカムイの宮を移すこと。そのために旅をしてきた山の民の仲間たちと合流した二人ですが、彼らを見つめる幾つもの視線が……

 と、何とも意味深な引きで終わった前作ですが、江戸で彼らを待っていたのは、不思議な力を持ち、カムイと交感することができる蝦夷のおばば。若き日に和人に捕らえられて江戸に連れてこられ、辛酸を舐めながらも、今はその霊力で周囲の人々から敬われる老女であります。

 彼女に――彼女の口を借りたカムイに導かれるまま、江戸に逗留することとなった新三郎一行ですが、ある日おばばが忽然と姿を消し、さらに一行は凶賊の群れの襲撃を受けることになります。
 そしてその戦いの痕跡から、新三郎たちの存在を知ったのは、将軍吉宗の腹心の御庭番・宮地。彼は吉宗の密命を受け、山の民たちと、盗賊たちを追うことになります。

 入り乱れる三つの勢力を結ぶのは、かつて信長が、光秀が、秀吉が、そして家康が求めたという伝説の秘宝。そしてついに吉宗と対面を果たした新三郎と魁は、意外な敵との死闘を繰り広げることに……


 と、これまでとは全く異なる舞台だけに物語の雰囲気も展開も少々異なる本作。これまでは明確な敵との攻防戦が繰り広げられてきた本シリーズですが、ここでは終盤に至るまで戦うべき敵の正体がわからず、決して戦闘力的には劣るわけではないものの、新三郎と魁は苦戦を強いられた印象があります。

 主役コンビがそのような状況で、逆に活躍するのは、前作ラストに登場した吉宗と宮地のコンビ。
 将軍と御庭番という関係ながら、紀州では兄弟のように育った二人の関係性がなかなか面白く――特に、吉宗に対する宮地の忠義心とも独占欲とも依存ともつかぬ複雑な感情は、入り組んだ本作の中でも印象に残ります。

 印象に残ると言えば、クライマックスで新三郎&魁らと死闘を繰り広げる相手もまた、出番にすればさほどの分量ではない敵役とは思えぬ存在感ですが、これは敵役側の心理描写を丹念に行う作者ならではのものでしょう。


 このように、舞台こそこれまでと異なるものの、アクションあり謎解きありとサービスぶりは変わらぬ本作なのですが――
 どうにも釈然としないものが残るのは、間違いなく、物語が終始(厳しい言い方をすれば)神懸かりに引っ張られて展開していくためであります。

 実に本作の物語は、おばばによるカムイのお告げに従い、展開していくこととなります。疑問も、自分たちの意見もなく、常に正しいカムイの言葉に従っていけば物語が展開していく……
 新三郎と魁はこれに納得しているのですが、読者としてはそうそう簡単に納得のいくものではありますまい。

 結局物語は最後の最後までカムイの手の中で転がされたようなものなのですが――山の中で下界の軛から解き放たれ自由に生きるのが魅力だった新三郎と魁が、自分の意志を見せずに振り回されるのは、あまり気持ちのいいものではありません。
 エンターテイメントとしては決して悪くない作品だけに、かえってこの点がひっかかるのであります。


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