『凍鉄の花』 二人の総司、二つの顔を持つ侍たち
鳥羽伏見以降の新選組を描く『北走新選組』で新選組ファンに知られる菅野文の、もう一つの新選組ものは、数ある新選組ものの中でも一際ユニークな作品でありましょう。何しろ、沖田総司が二重人格の持ち主であり、そしてもう一人の総司は、土方歳三を憎み抜き、その命を狙っているのですから。
幼い頃に父を亡くし、半ば口減らしのために近藤の道場に預けられた総司。そこで兄とも慕う土方をはじめ、原田、藤堂、永倉といった仲間たちと出会った彼は、やがて浪士組、新選組として活躍することに……
という点は他の新選組ものと変わりませんが、ここで総司の運命を大きく変えることとなったのは、病で亡くなったと聞かされていた父が、実は町でのいざこざで斬り殺され、そしてその相手が土方であったと知ってしまったこと。
その時から生まれたもう一つの人格は、総司が新選組として血刀を振るう中で目覚め、成長し、やがて彼の身体の主導権を奪うまでに。そしてもう一人の総司が、土方への復讐の刃を振り上げたのは、土方の夢が叶おうとする瞬間――そう、新選組がその勇名を挙げることとなったあの事件の最中で……
全4話から構成される本作の、これが第1話。
以降、土方たちの上京前、(総司の父を斬ったことにより)刀を持てなくなった土方と彼の許嫁のl交流を描く第2話、もう一人の総司の存在を知った芹沢鴨と総司・土方の三人の想いが交錯する第3話、そして病に倒れた総司が、ついに父の死の真相を知ることとなる第4話と、物語は時系列を錯綜させながら展開していくこととなります。
(ちなみに第2話に登場する土方の許嫁の名が「お琴」なのにはニヤリ)
新選組ものといえば、ある意味キャラクターものとしての側面も強いジャンル。近藤であれば豪快、土方であれば冷徹、原田であれば無鉄砲、新選組の有名隊士のキャラクターイメージは、作品は異なっても、それぞれある程度固まっているように感じられます。
沖田ももちろんイメージが固まっていることは間違いありませんが――彼の場合、無邪気で子供好きの好青年というイメージの裏でもう一つ、無邪気に人を斬るどこか欠落した青年というイメージがあるように感じられます。
本作で描かれる総司の二つの人格は、いわばその両者を一つの作品に登場させてみせたものと言えるかもしれません。
しかし、二つの顔を持つのは、実は総司だけではありません。
新選組のために鬼になると誓い、その通り振る舞いながらも、一度は刀を捨てようと思い詰めた土方。これもイメージどおり粗暴な言動を続け、それがために討たれながらも、ある真意を秘めていた芹沢。
総司が尊敬していた父の存在も含め、本作のメインとなる登場人物たちは、いずれも二つの――多くの場合正と負の――顔を持ち、それ故に苦しみ、もがき……しかしその中で己の生を全うせんとするのであります。
正直に申し上げれば、そんな本作の中核を成す総司の父の死の真相が容易に想像できてしまうという弱点はあります。
しかしそれでもなお、お馴染みのキャラクターを描きつつ、ある意味それを逆手に取ったドラマを展開してみせた本作は、その手法のユニークさだけでなく、それで浮き彫りにしたものの内容を以て、印象に残る新選組ものであると……そう感じるところであります。
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