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2015.04.04

『着物憑きお紺覚書』 古着を売り、幸せを売る彼女の商人道

 白泉社招き猫文庫で昨年刊行されたユニークなアンソロジー『てのひら猫語り』。そこに短編が掲載された『着物憑きお紺覚書』が、一本立ちして帰ってきました。日本橋の古着屋の跡取り娘にして、不思議な能力を持つお紺が、着物に込められた想いが招く事件に挑みます。

 一種のリサイクル社会であった江戸において、人の古着を売り買いする古着屋が相当数存在していたことについては、時代ものファンにはお馴染みでしょう。本作に登場する江戸日本橋の多可良屋もその一軒でありますが――しかし、他の店にはない特色が一つあります。
 それは、この店が、「いわくつき」の着物を扱うこと。もちろんそれだけを扱っているわけではありませんが、他の店では嫌がるような、そして客も手元に置くのを嫌がるような、様々な因縁を持つ着物を、この店では買い取るのです。

 さて、第1話に登場する福次郎少年とその母は、そんなことは知らずにこの店を訪れることになります。
 行商をしていた二人の前に現れ、自分の着た立派な着物と、みすぼらしい福次郎の母の着物を取り替えてくれとせがむ女。根負けして取り替えした着物を売るために多可良屋に足を踏み入れた福次郎に対し、お紺は着物に込められた想いの存在を感じ取り、意外な行動に出ることになります。

 実はお紺は、着物憑き――着物に籠もった想い、記憶を自分に取り憑かせ、それを追体験する能力の持ち主。お紺は一糸まとわぬ身体の上にその着物をまとうことで、その能力を発揮するのでありました。
 着物憑きの力で、女の想いを知ったお紺は、福次郎とともに、その想いを叶えさせようとするのですが……

 本作は、そんな第1話の物語が縁でお紺の店に奉公することとなった福次郎改め福松が、自分が奉公するうちに見聞した事件の数々を記した『覚書』。
 亡くなった猫好きの女が遺した着物が数々の奇瑞を起こすという謎にまつわる第2話も(そして冒頭に挙げた『てのひら猫語り』収録の作品も)、同様のスタイルで描かれることとなります。


 商家を舞台とする作品の中には、その店で扱う物に込められた人の想いと、それを感じとる能力を持つ者を題材とするものは少なくありません。
 もちろん本作もその一つでありますが、扱う物が物だけに、「着る」ことでそれを知るというのは、なかなかに面白い趣向でありましょう。

 人がその身を包む着物。基本的に人は生まれてから死ぬまで、その生のほとんどで着物に包まれて暮らすことを思えば、その着物に人の想いや記憶も包まれることは、理屈抜きで納得できるように感じられるのです。

 しかし本作の特色は、お紺がその想いを知ることだけで終わらせずに、その後もその想いを――関わった人が幸せになる方向に――成就させようと積極的に行動する点にあります。

 それは一歩間違えればお節介、善意の押し売りともなりかねないのですが……しかしそれこそが彼女が着物憑きの力を持つ理由。
 自分たちの扱った着物に関わった人々を少しでも幸せにしたい、そのための手助けがしたい――それこそが彼女の行動原理であり、商人道なのであります。


 着物憑きという本作独自の特殊な設定や、お紺ではなく福松視点で語られること、そして何よりも着物に込められた一種ミステリめいた真相から、語り口が重い印象はあります。
 その点は残念ではありますが、突き詰めれば人に幸せを売ろうとするお紺たちの姿は、やはり何とも気持ちよく映ります。

 基本的な設定の紹介がされた今後に、この物語で描かれるものに期待しましょう。


『着物憑きお紺覚書』(時海結以 白泉社招き猫文庫) Amazon
着物憑きお紺覚書 (招き猫文庫)


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