都筑道夫『幽鬼伝』 名手の連作ホラー捕物帖の魔力
ある晩、見知らぬ相手に斬りつけられた岡っ引き・念仏の弥八。下手人は彼の眼前で謎めいた死を遂げるが、同様の事件は四件も続いていた。隠居同心の稲生外記に相談を持ち込んだ弥八だが、外記も辻斬りの襲撃を受ける。外記の妾・涙はその不思議な霊感で、敵の存在を語るが……(『念仏のまき』)
以前、併録の短編『暗闇坂心中』を先に紹介させていただきましたが、戎光祥出版の都筑道夫時代小説コレクションの第4巻のメインとも言うべき連作が、この『幽鬼伝』であります。
主人公となるのは、しごけば鉄棒となる数珠玉を武器とする岡っ引き・念仏の弥八と、彼が以前世話になっていた隠居町方同心・稲生外記、そして外記が世話する盲目の、そして数々の霊能力を持つ美少女・涙。
力と知恵と霊能と……それぞれが得意とする分野を持つトリオが、江戸を騒がす数々の怪奇事件に挑むのであります。
そんな彼らが挑むことになるのは、七つの事件――
弥八と外記をはじめ、何の関係もないような人々が次々と謎の辻斬りに襲われる『念仏のまき』
姿なき射手により、次々に人々が射殺されていく事件の背後に、奇怪な妖術師の影が潜む『妖弓のまき』
髑髏のかんざしが突き刺さった紙人形が発見されるたびに殺されていく娘たちを守るため弥八らが奔走する『髑髏のまき』
地蔵の首の代わりに女の首が載せられていたという猟奇事件を皮切りに展開する幻術絵巻『生首のまき』
雪の中、二人の岡っ引きの首を切り裂いて殺した妖女の魔手が弥八にも迫る『雪女のまき』
河童の目撃譚から、島原の乱を由来とするアイテム争奪戦へと展開していく『河童のまき』
そして、江戸を襲う怪火と生ける死人たちに町が大混乱に陥る中、宿敵・天草小天治と弥八・外記・涙が最後の大決戦を繰り広げる『怪火のまき』
こうして怪異を向こうに回して戦う時代怪異譚というのは、今ではさまで珍しくないように感じられるかもしれません。
しかし本作のユニークな点は、岡っ引きと(隠居したとはいえ)町方同心という主役キャラから想像できるように、一種の捕物帖として構成されている点でありましょう。
なるほど、本作で展開する物語の背後には、人知を超えた超常現象が存在しますが、しかしそれは(一見そう見えたとしても)決して通り悪魔のようなものではなく、何者かの明確な意志の下、ある目的を持って発生するもの。
その意味では本作は実にロジカルな物語構造の時代ミステリとも呼べるものであり――そしてそのジャンルにおいて、作者が無双の筆を振るってきたことは、今更言うまでもありますまい。
そしてオカルトもの、ホラーものとしてみても、本作はかなりの出来映えであります。
呪いの武具に魔犬の群れ、生ける死人に襲いかかる雪の怪……本作で描かれる怪異の数々は(作者お得意の幻術連発もありますが)今の目で見ても恐ろしく、かつ執筆時期を考えれば、相当に過激。
特にラストの『怪火のまき』など、今の目で見てもちょっと驚かされるような描写もあり、そして質・量を問わず投入されたアイディアの数々など、作者の時代を超えたイマジネーションの豊富さに、感心するばかりであります。
その一方でラストの展開が――そのド派手なクライマックス連発ぶりにさまで気にはならないとはいえ――あまりにも突然すぎるのは、不定期連載されてきた作品の書き下ろし最終回という事情を踏まえても、やはり気になるところではあります。
また、ほとんど誤りのない託宣を与えてくれる涙の存在が、このような趣向の作品としてはあまりに便利に過ぎるのも、個人的にはひっかかる部分であります。
そうした点もあるものの、しかし、本作がなおも魅力的であるのもまた、間違いないところではあります。
私は大陸文庫版で読んで以来、ほぼ四半世紀ぶりに本作を読み返しましたが、読み始めたら止めることもできずに、最後まで一息に読んだ、いや読まされてしまったのですから……
この辺り、時代ものに、ミステリに、ホラーに、いずれのジャンルにおいても健筆を振るってきた作者ならではの魔力なのでありましょう。
『幽鬼伝』(都筑道夫 戎光祥出版『変幻黄金鬼 幽鬼伝』所収) Amazon

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