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2015.04.14

小沢章友『あやか師夢介 元禄夜話』 夢の果てに死を見る幻想譚

 今個人的に一番気になっているレーベルである白泉社招き猫文庫は、毎回よくぞこの人を、という作家が登用されているのですが、本作の作者・小沢章友もその一人。本作は、幻想色の強い時代ものを得意とする作者が、人の未来を夢の形で見せることのできる夢見師の男を狂言回しに描く連作であります。

 居を定めずにその日その日を気まぐれに暮らす男・夢助。親の顔も知らぬまま、菱川師宣をはじめ様々な人々に世話になりながら江戸で生きてきた彼には、生まれながらにして夢見という不思議な能力が備わっておりました。

 自分の掌を擦りあわせ、そしてその掌を目に当てることで、未来の姿を夢に見ることができる――自分の夢を見るだけでなく、他人の夢を見る/見せる力を持つ彼のもとには、自分の運命を占ってもらおうとする人々が引きも切らず押し掛けることになります。

 そんな彼の親友は、かの初代市川団十郎。夢介に夢を見せられたことで荒事に開眼、いまや文字通りの千両役者となった彼は、持ち前の物見高さからその後も夢介とつるんでは、人の見る夢を知ろうとするのであります。

 本作はそんな夢介、そして団十郎の前に現れる有名無名、様々な人々とその夢を描く連作短編集。団十郎や師宣のほか、松尾芭蕉や八百屋お七、白井権八など、舞台となる元禄時代の有名人を中心に描かれる本作は、夢を見る者が様々であるだけに、物語もまた多様であります。

 何しろ、夢を――未来を見たとしても、それが必ずしも夢の成就を、成功を約束するものではありません。無惨に夢破れる姿を見せられることもあれば、たとえ一時は夢が叶ったとしても、その後散っていくこともある。
 いや、人の命がいつかは必ず尽きることを思えば、全ての夢の結末は死であると言えるのかもしれません。

 それゆえ、と言うべきでしょうか、本作で描かれる物語には、いずれも死の香りが色濃く漂うこととなります。
 それは必ずしも明確に描かれるわけではなく、それ故に本作が単純に暗鬱な物語というわけではないのですが――しかし華やかな夢の先に待つ「それ」の影は、物語に不思議な陰影を与えているのであります。

 特に、親友たる団十郎の「結末」を見てしまった夢介は、物語を通じてその光景に――そしてそれを団十郎が見てしまったのではないかという想いに悩まされることになるのですが……

 閑話休題、このような本作のスタイルには、好みが分かれるのではないかとは感じます。
 先が、結末がわかるといってもあくまでもそれは物語の先のこと。それをほのめかして淡々と終わる各エピソードに、すっきりしないものが残るのもまた事実でしょう。

 しかし本作においては――そして、幻想作家としての作者の作品においては、この形が最もしっくりくると、そう私は感じるところであります。
 人の生きる原動力たる夢と、それが極まった先の死……そこにある悲喜劇は、やはり静かに描かれていくべきものでしょう。


 ちなみに本作の夢介は、掌を目に当てることで相手の夢を見る夢見師ですが、作者が本作の前に発表した『運命師降魔伝』の主人公・幻六は、掌で頭を包み込むことで相手の過去・未来を見る運命師。

 こちらは江戸時代を舞台とした幻想譚、あちらは室町時代を舞台とした伝奇活劇と大きな違いはあるものの、もしかすると……などと考えてしまうのは、マニアの悪い癖ではありますが。


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