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2015.05.01

堀川アサコ『大奥の座敷童子』 賑やかな大奥の大騒動

 困窮する野笛藩の命運を背負い、大奥にいるという座敷童子探しを命じられた少女・今井一期。しかし初めて江戸城に向かう途中、謎の一団に襲撃されて以来、彼女の周囲には不穏な動きが相次ぐ。様々な噂が飛び交い、奇人怪人が入り乱れる大奥で座敷童子を求めて奔走する一期が知った真実とは……

 この数ヶ月間に相次いで刊行された座敷童子もののもう一作が、堀川アサコによる本作。いかにも作者らしい、エキセントリックなキャラクターたちが入り乱れるユニークな作品であります。

 時はペリーの黒船来航に揺れる13代将軍家定の時代。吹けば飛ぶような小藩・野笛藩で一の美女である14歳の少女・今井一期(イチゴ)は、藩からとんでもない密命を授けられ、大奥に奉公に上がることとなります。
 それは、かつて野笛藩におり、大奥に行ってしまったという座敷童子を見つけ、連れ戻せというもの。住み着いた家に福を与えるという座敷童子が去ったことで、野笛藩の財政は火の車となってしまった……というのであります。

 そんな無茶苦茶な使命を与えられたイチゴの前途は多難そのもの。江戸城に向かう途中や参詣のお供についた時にならず者の一団に襲われ、大奥では恐ろしい御年寄りに目を付けられ、妙に犬や猫に懐かれ、大奥に出没する妖怪たちに出くわし……

 それでも持ち前の天真爛漫さと、イケメンの伊賀者・唐次、謎の人・サダさんの助けで、少しずつ座敷童子にまつわる謎に近づいていくイチゴですが、その先には、将軍家を揺るがす巨大な秘密が!


 そんな本作から受ける印象を一言で表せば「賑やか」といったところでしょうか。

 大奥といえば、どうしても女性同士が足を引っ張り合う陰湿な世界、という印象を、これまで大奥を舞台としてきた様々なフィクションの影響で受けてしまうもの。

 それはそれでもちろん事実ではあるのでしょうが、しかしその一方で、そうした権力や寵愛争いとは無縁の身分の女性たちは、もっと賑やかに、脳天気に暮らしていたのかも……というのは、必ずしも事実ではないかもしれませんが、なかなかに楽しい想像であります。
 本作で描かれる大奥の姿は、まさにそれ。四季折々に開催される賑やかなイベントやら、怪談話を含む様々な噂話。そんなある意味身近な大奥像は、なかなかに新鮮で魅力的です。

 そしてそんな舞台で活躍するのは、また個性的すぎる面々。イケメンだが仏頂面の伊賀者・唐次、大奥のあちこちに出没しては枕絵を置いていく「枕絵の妖怪」、大奥で誰かが死ぬ際に泣くという「泣きジジさま」、江戸の町に出没する奇怪な髑髏獅子、江戸の町で窮地に陥ったイチゴを救った謎の白髪の美女……奇人怪人のオンパレードです。

 さらに、物語が展開していく中で明かされていくのは、幕府と徳川将軍家にまつわる、伝奇風味満点の二つの大秘事と、全く以て盛りだくさんなのであります。


 しかし、そんな賑やかな物語でありつつも、その背景にあるのは、時に愚かしく時に残酷で、そして時に優しく時に暖かい、人の想い。
 良いことも悪いことも、そのどちらをもなし得る人間という存在の織りなす悲喜劇を、本作は座敷童子という存在を通じて、描き出すのです。

 人間の歴史を、人間の社会を動かしていくのは妖怪でも幽霊でもなく、あくまでも人間である――それは時にひどく残酷に感じられますが、しかしそれは同時に救いでもありましょう。
 賑やかなドタバタ活劇を描きつつも、本作は、そんな一つの真実を提示してみせるのであります。


 この物語からわずか十数年後には地上から、あたかも夢であったように消え去ってしまう大奥という世界。
 その間に何があったのか……それを知るのは怖くもありますが、しかしまだしばらく、この現実と背中合わせの夢の世界を眺めていたい。そんな気持ちにさせられる作品であります。続編希望。


『大奥の座敷童子』(堀川アサコ 講談社) Amazon
大奥の座敷童子

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