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2015.05.11

井上伸一郎『聖獣戦記 白い影』 元寇と勾玉と大怪獣決闘と

 先日収録作品を紹介した『日本怪獣侵略伝』にわずかに先んじて刊行された怪獣小説アンソロジー『怪獣文藝の逆襲』にも、時代伝奇怪獣小説が収録されています。それが本作、井上伸一郎『聖獣戦記 白い影』――元角川書店社長、元KADOKAWA代表取締役専務の初小説という以上に、ある意味本書一の話題作と言えるかもしれません。

 舞台となるのは1281年の九州……そう、元の二度目の来寇である弘安の役。主人公は、その中で活躍した肥前の御家人・龍造寺家清(後に戦国時代に九州で勢力を伸ばした龍造寺家の先祖)であります。

 再び襲来した元軍に対し、騎馬隊を率いて超人的な活躍を見せる家清。激戦が続く中、彼は船から船に飛び移り元軍に白兵戦を挑む「影」を目撃します。
 その「影」の名は対馬の小太郎――そして彼と家清には、一つの共通点がありました。それはこの国を守る四聖獣から、その力を継ぐ者の証である勾玉を与えられていたこと。

 青竜の力を継ぐ家清、白虎の力を継ぐ小太郎。ともに元軍打倒のために戦いながらも、二人の求める道は、決定的に異なることになるのですが……


 と、基本設定はバリバリの時代伝奇ものである本作。
 ベースとなるのが、トンデモ本ではお馴染みのあの説なのが個人的に気になるところではありますが、「勾玉」「四聖獣」という何やら気になるキーワードも交え、元寇と怪獣という、おそらくはこれまでになかった組み合わせを用意してみせたのには感心します。

 そしてその果てに登場するのは……と、これはあまりの直球ぶりに驚かされるのですが――そしてこれが冒頭に述べた「話題作」の意味なのですが――これはある意味、この作者ならではと言えるのかもしれません。
(さらに青竜の使う技にもニヤリ)


 そんなわけで題材的には非常に楽しい作品なのですが――しかし小説としては、いささか苦しい、というのが正直な感想ではあります。

 短編の分量の中に、長編並みの情報量を入れ込もうとしたゆえでありましょうか――省略してもよい描写(特に時代背景に関する)を丁寧に書いてしまっているという印象があります。

 先に述べた通り題材選びの妙、そして大怪獣決闘に繋がっていく理由など、本作ならではの部分も少なくないだけに、その点は勿体ないという気持ちがあります。


『聖獣戦記 白い影』(井上伸一郎 KADOKAWA/角川書店『怪獣文藝の逆襲』所収) Amazon
怪獣文藝の逆襲 (幽BOOKS)

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