朝松健『かはほり検校 一休どくろ譚』 一休宗純、再び暗き夜を行く
一昨年に休刊したホラー&ダーク・ファンタジー専門誌『ナイトランド』が、先日、『ナイトランド・クォータリー』として復活しました。しかし復活したのは雑誌だけではありません。朝松健描く一休宗純もまた、「一休どくろ譚」と銘打って、本作をもって復活したのであります。
これまで『異形コレクション』を中心に発表されてきた作者の一休もの。
後に『ぬばたま一休』のシリーズタイトルを冠された一連の作品に登場する一休は、とんち坊主でも、乱世を生きた高僧でもない、全く新たなキャラクターでありました。
帝の子として生まれながらも権威権勢に背を向け、たとえ相手が帝でも将軍でも屈さぬ反骨心と諧謔味の持ち主。そして明式の杖術と己の心胆でもって、様々な怪異と対決し、これを打ち破る破邪顕正の人――
作者の描く一連の室町伝奇、闇深き時代の怪異を描く物語群の中で、一筋の光明とも言うべきキャラクターであります。
これらの作品では青年期から壮年期が数多く描かれてきた朝松一休ですが、本作で描かれるのは五十代の、初老にさしかかった一休。
これまで以上に皮肉でひねくれ者、そして人間的に深みを増した一休が、立ち向かうのは、「吸血鬼」であります。
毎号テーマを決めて、それに沿った作品、評論が掲載される『ナイトランド』誌。後継誌においてもそれは変わりませんが、本作が掲載されたVol.1の特集は「吸血鬼変奏曲」。それゆえの吸血鬼テーマでありますが、もちろんそこに登場する吸血鬼が、並みのそれであるわけもありません。
将軍義勝(後の義政)が即位した直後の頃、都で続発する奇怪な事件。いずれも身分ある女性が、一滴残さず血を吸われた死体となって次々と発見されたのであります。
かつての親友・蜷川親右衛門の遺児で将軍直属の若き隠密・元親の依頼で(報酬と引き替えに)この謎を追うこととなった一休(この時の「妖怪変化は若い頃ゲップの出るほど遭遇した」というメタっぽさも漂う憎まれ口も楽しい)。
折しも、この怪異に遭遇し、危ういところを逃れた盲目の少女芸人・森と出会っていた一休は、一計を案じてこの怪異に挑むのですが……
という内容の本作、短編ということもあって物語展開は比較的シンプルなのですが、冒頭で森が魔物に襲われるくだりなど、視覚を持たぬ者故の、それ以外の感覚によって怪異を描き出す様は、やはりベテランの技。
恐らくはあの吸血鬼時代小説のオマージュであろうタイトルは一見ストレートに感じられるかもしれませんが、意外な形で現れるクライマックスと、その先に待ち受ける良い意味で釈然としないものが残る結末もまた巧みであります。
晩年の一休といえば、盲目の美女・森侍女を側に置いていたことがよく知られていますが(『ぬばたま一休』にも何度か登場していますが)、いよいよ彼女も本作で本格的に登場したことになります。
さらに、くせ者だった父親に比べればまだまだ青い元親と、一休とともにシリーズを引っ張っていくであろう顔ぶれも興味深く、復活第一作として、今後も期待が持てる滑り出しでありましょう。
おそらくは今後『ナイトランド・クォータリー』で発表される作品も、特集のテーマに合わせたものになるかと思いますが、それもまた『異形コレクション』を思わせて懐かしい。
まずは、暗き夜を行く者――一休宗純の旅が再び始まったことを喜びたいと思います。
『かはほり検校 一休どくろ譚』(朝松健 書苑新社「ナイトランド・クォータリー」Vol.1所収) Amazon

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