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2015.05.29

片山洋一『大坂誕生』 街の成長、人の成長

 先日色々と話題になった大阪という街。その大阪が「大坂」だった頃――そして大坂夏の陣で一度灰燼に帰した後、そこから甦ろうとしていた頃を描いたユニークな作品、第6回朝日時代小説大賞優秀作であります。

 江戸時代は天領として扱われ、城代・町奉行が置かれた大坂。その姿は、当初からそうであったように錯覚しがちですが……しかし、その形となる前に、大坂を治め、復興させた人物がいました。
 それが本作の主人公・松平忠明であります。

 徳川氏の重臣・奥平信昌と家康の娘の間に生まれ、後に家康の養子となり、松平姓を戴いた忠明。大坂の陣では、直前に没した兄に代わり美濃の諸将を束ねて活躍し、戦後は大坂10万石を与えられています。
 その後も大和郡山藩12万石、播磨姫路藩18万石と順調に加増移封され、特に後者においては西国探題として睨みを効かせ、また家光の後見人として重きを成した忠明。奇しくも本作と同時に朝日時代小説大賞に入賞した『決戦! 熊本城』にも顔を見せる人物であります。

 さて、本作はその忠明の大坂時代の物語。大坂の陣の活躍を見込まれ、大坂の地を与えられると同時に、家康からその復興を命じられた忠明が、勇躍その大命を果たさんとする姿を描くのですが……
 それは同時に、その道の長さ険しさを描くものでもあります。

 いかに天下は徳川に帰したとはいえ、大坂は豊臣のお膝元。その豊臣を滅ぼし――そして何よりも大坂という土地を一度滅ぼしたのは、ほかならぬ徳川であります。
 いわば大坂は徳川にとって――その代表者たる忠明にとっては敵地。つい先日まで自分に刃を向け、自分が刃を向けた相手の住む地を立て直すことの難しさは、言うまでもありますまい。

 さらに障害は外部だけではありません。名家に生まれ華々しい経歴を持つ忠明を快く思わぬ叩き上げの国目付が、彼の足を引っ張り、大坂に我が意を反映させようと暗躍。
 その背後には「戦後」の幕府の、この国の主導権争いも絡み、いよいよ複雑怪奇な様相を呈することとなります。

 本作は、そんな状況に対し、忠明が持ち前の聡明さと大胆さ、器の広さを以て、困難を一つ一つ乗り越えていく姿を描く物語。そしてそれは、豊かな才を持ちながらも、まだまだ若く経験に乏しい忠明が、時に周囲とぶつかり、時に苦汁を飲みながらも、一歩一歩人間として、大名として成長していく姿を描く成長物語でもあります。

 実に本作の魅力は、大坂という街、忠明という人間(と、それぞれの成長)という題材にあると言えましょう。

(さらに個人的には、忠明の護衛役として、荒木又右衛門が登場するのも面白いところ。実は又右衛門、かの鍵屋の辻の仇討ちに向かう前は、郡山藩で忠明に仕えていたのであります)


 と、その題材は実に魅力的なのですが、小説としては本作は粗い部分があるというのが正直な印象ではあります。

 忠明が大坂を領していた4年間という短い期間が舞台ということもあるかもしれませんが、本作の物語展開はかなりシンプルで、山場もさほど多く大きくはないというのが、その理由の一つではあります。

 しかし何よりも物語としての主義主張、語るべき主題がほとんど全て、登場人物の言葉か地の文において描かれてしまうのは、いかがなものかと感じます。
 もちろんこれは全く個人的な好みの問題であるかもしれませんが……しかし、語るべきものが全て実際の言葉で語られてしまうというのは、一種の説明過多と表すべきように感じられます。


 知る限りでは作者は本作がデビュー作、新鮮かつ魅力的な題材選びに、文章・構成がかみ合えば鬼に金棒だと感じるのですが……

『大坂誕生』(片山洋一 朝日新聞出版) Amazon
大坂誕生

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