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2015.05.14

河村恵利『平安怪盗伝 恋の秘めごと』 名無しの盗賊が暴く秘められた想い

 コンスタントに歴史・時代漫画を発表している河村恵利の作品でも珍しいと思われる、レギュラーキャラクターを配置しての作品集であります。そのキャラクターはタイトルにあるように盗賊――平安中期の京を舞台に、凶悪ながらどこか憎めぬ名無しの盗賊を狂言回しとした連作です。

 この名無しの盗賊、見かけは優男ながら、名うての悪党。盗みはもとより、衆を率いての押し込みに金で請け負った人殺し、相手を騙したり陥れたりするのもお手の物という、凶悪・奸悪極まりない男であります。

 そんな男が、「仕事」の最中に巻き込まれた様々な事件を描くのが『平安怪盗伝』シリーズ。
 実は単行本はこれで二冊目なのですが、前作には二編ほど無関係な平安ものが収録されていたのに対し、本作に収録された5作品はいずれもシリーズの作品と、堂々の(?)主役ぶりであります。

 そんな本作に収録された作品(一番古いものが2009年、新しいもので昨年)は以下の5話――
 入内を控えたさる姫君殺しを請け負った盗賊が、自分を利用しようとした者に痛烈な意趣返しをする『破れ細長』
 自分が、最期を看取ったと偽り、殺した僧の形見を手にその実家に入り込んだ盗賊の意外な破綻『仇の風』
 旅の途中の堂で居合わせた盗賊と訳ありの男女、富農の老人のやりとりが意外な展開をみせる『岐路』
 盗賊の疑いをかけられながらも身分や理由を語らない青年に近づく盗賊の企みの皮肉な成り行き『人遣り』
 子猫が縁で知り合った姫君にほのかな想いを抱く検非違使が知る残酷な事実を描く『羅刹』

 いずれも独立した、バラエティに富んだ作品ですが、しかしそこに共通するのは、いずれもミステリ風味のひねりが効いていることと、それ以上に、――本作の副題が示すように――恋愛が絡んでくることであります。

 それも、主人公自身のそれではなく、彼の仕事に巻き込まれた周囲の人々の――基本的に貴族の――それ。
 要するに、彼の存在が一種にキューピッドになってしまうわけで、凶悪な彼のキャラクターと裏腹の物語展開が、実に楽しいのであります(と思いきや、偶に重い結末も待っているので油断できない)。

 その中でも、個人的に特に印象に残ったのは『岐路』。都での仕事にしくじって逃げる途中の盗賊が、相棒と落ち合う旅の途中、貴族の屋敷で虐待されて逃げてきた女と、彼女を哀れに思い助けた旅の男と出会うのですが、実は……というお話であります。

 いかにも本シリーズらしい展開が一転、冒頭からの伏線を踏まえた意外な真実が提示されるのに驚かされますが、そこからさらにもう一度ひねりが加えられるのが楽しい本作。
 いつもはしてやられることの多い盗賊が、珍しく(?)粋な計らいを見せるのも嬉しく――またその「理由」も実にいい――本シリーズの魅力に満ちた作品、と言ってもよいのではないでしょうか。


 それにしてもこの盗賊、おそらくはこれからも気ままに悪事を働き、そして図らずもキューピッドとなることでしょう。

 実はこの盗賊、前作でその名前が記されていたのですが、本作のあとがきでは作者がその設定はなし、と宣言しています。
 しかしそれもこのシリーズにおいては正解のように感じます。平安という時代を秘め隠された想いという切り口から描き出す本シリーズの狂言回しを務めるには、やはり有名人ではなく、名無しの盗賊の方がふさわしいでしょうから……


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