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2015.05.03

菅野文『北走新選組』 狂気にも似た青春の果てに

 菅野文の『凍鉄の花』は、二重人格者の沖田総司が土方歳三の命を狙うという変化球の新選組ものでしたが、同じ作者の本作は、史実にかなりの部分忠実な――しかし、これまで漫画では題材にされることが比較的少なかった関東以北での隊士を描いた、やはりユニークな新選組ものであります。

 本書は、全三話からなる連作短編集。「北走」の語が示すとおり、鳥羽伏見の戦で敗れ、江戸に撤退した後の新選組が、宇都宮などの戦いを経て、北の大地――蝦夷地に至るまでの姿が描かれることとなります。

 そして各話の中心となるのは、野村利三郎・相馬主計・土方歳三の三人。
 一度は新選組脱走を決意しながらも土方に救われ、彼に心酔した野村の生き様を、「碧血」の伝説を交えて描く『碧に還る』
 野村とともに土方を支え、土方の死後に最後の新選組隊長となった相馬主計が、明治に最期を遂げるまでの姿『散る緋』
 近藤亡き後、生きる理由を無くしながらも戦い続ける土方の姿が、彼とは対照的な大鳥圭介の目を通じて描かれる『殉白』

 いずれも少女漫画らしい端正な絵柄で描かれますが、その内容は冒頭に述べたとおり、史実に忠実に、幕府が無くなった後も戦い続ける新選組の姿を、最後の最後まで描くこととなります。

 感心させられるのは、土方・相馬はともかく、野村利三郎を主人公の一人としていることで――小説ですら、なかなか題材に取りあげられることの少ないこの人物を扱った漫画は、ほとんど本作のみなのではないでしょうか。
(陸軍隊の春日左衛門との不仲もきちんと描かれているのも驚きます)
 いや、そもそも蝦夷地での土方を描いたものは少なくないものの、近藤の死後の「新選組」を描いた漫画自体がまだまだ少ないのですが……


 そしてそんな本作から伝わってくるのは、彼らの新選組に対する強烈な思いであり――それは、言い方が悪いかもしれませんが、見ようによっては一種の狂気や妄執に近いものすら感じられるものであります。
(特に『散る緋』結末の相馬の選択には、良くも悪くも強烈なインパクトがあります)

 しかし、あの時代に、あのような形で生きた若者であれば、そうもあろう、という気持ちもまた、こちらにはあります。
 彼らにとってかけがえのない存在であった新選組……それは彼らにとっては青春そのものであり、そして青春には時として、傍からは狂気とも見えるような激情を含むのですから――


 滅びを目前としても新選組であることを選んだ若者たちの、鮮烈な青春記とでも言うべきでありましょうか。


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コメント

京都時代の新撰組はマンガで多く描かれていますが。お書きになったように近藤死後の新撰組を描いたのは少ないですね。中でも相馬主計はこのマンガを除けば主役クラスで出るのが『号外!!新選組カズエ』ぐらいしか無いですから。というか出たマンガってあったかな・・・?

アニメになるとさらに少なく北海道発のご当地ギャグアニメの『フランチェスカ』で主人公のフランチェスカと戦うゾンビとして蘇り、EZO共和国の復活のために北海道侵略を目論む(笑)新撰組の一人(他は土方歳三・市村鉄之助・中島登・島田魁)として出たのが私の知る限りアニメ化で目立った相馬主計ですから。不幸ぶりはフィクションでも変わらない様で・・・。

投稿: ジャラル | 2015.05.04 13:44

ジャラル様:

確かに相馬主計は主役クラスどころか登場することも少ないですね…
というか『フランチェスカ』はさすがにチェックしておりませんでした(笑)

投稿: 三田主水 | 2015.05.13 00:24

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