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2015.05.19

『なないろ金平糖 いろりの事件帖』(その二) 彼女の最後のチカラ

 伽古屋圭市の大正ミステリ第3弾『なないろ金平糖 いろりの事件帖』の紹介の続きであります。千里眼というチカラを題材としつつも、本格的なミステリである本作。しかし本作の素晴らしい点はそれに留まりません。本作はそれと同時に、少女の成長物語としてもまた、優れた作品なのです。

(以下、終盤の内容を匂わせる描写がありますのでご注意を)

 先に述べたとおり、幼い頃のある事件がきっかけで千里眼を得たいろり。しかしそのチカラは決して彼女に福をもたらしたわけでえはない――いや、むしろ苦しみを多く与えたものでした。
 彼女の意志とは無関係に、彼女の脳裏に浮かぶ過去や未来の記憶。それは幼い彼女の心を苦しめると同時に、周囲の人間から彼女が阻害される理由となるものでありました。

 ここで唸らされるのが、大正時代という本作の舞台設定。この時代、千里眼は胡散臭くみられるものであって、有り難がられるものではなかった……と言えば、気付かれる方もいるでしょう。
 そう、千里眼といえば、本作から遠くない過去である明治時代末に御船千鶴子らの千里眼に対する真贋論争が起きているのであり――その結果として社会が持つようになった千里眼に対するネガティブなイメージは、いろりにも暗い陰を落としているのです。

 そんなわけで、他者との交わりを可能な限り避けてきたいろりでありますが――しかし彼女にとって近しい者が現れます。それは第1話で彼女がその能力を隠しつつ、悩みを解決してみせた少女・絹。
 それ以来、いろりをお姉さまと呼んで一心になつく絹に、いろりもまた心を開いていくのですが――しかし、彼女を悩ませるのは自分のチカラの存在であります。

 果たしてそのチカラの存在を打ち明けた時、絹がこれまでどおり、自分を受け入れてくれるのか。そんな彼女の迷いが引き金となって思わぬ事件が起こり、そしてそれはいろりと絹の絆を試すこととなるのですが――
(これはあまり詳しく書くわけにはいけませんが、「その時」に向けて、不吉なビジョンが積み重ねられていくのがたまらない)

 もちろん、いろりの持つチカラは、あくまでも特別な例であります。
 しかし、ありのままの自分自身を他者が――それも自分に近しい者、近しくありたい者が――受け入れてくれるかというのは、誰にでもある悩み・迷いでしょう。

 そんな感情に対し、最後にいろりが如何なる答えを出すのか。もちろんそれをここで述べるわけにはいきませんが、彼女の七色の金平糖の最後の色が引き出したチカラこそが、その答えであります。
 そしてそのチカラを意味するところを――彼女のこれまでの人生を踏まえて――思えば、彼女の成長に、熱い感動がこみ上げるのです。


 そして――その先にも一つの謎解きが存在します。それも、本作の特異な設定でこそ成り立つ、極めて意外なかつ極めてフェアなものが。
 それを知った時には、作者のファンとしては極めて爽快な気分で叫ぶしかないのであります。「今回もやられた!」と。


 超能力探偵という扱いが難しい題材を用いつつ本格的なミステリを構築し、そしてその中で爽やかな少女の成長劇を描き出す。
 作者がこちらの想定したハードルを軽々と超えてみせるのに、もう驚く必要はないのかもしれません。この次も、そのまた次も……作者はこちらの想像を超える作品を繰り出してくるのでしょうから。


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