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2015.06.22

くせつきこ『かみがたり 女陰陽師と房総の青鬼』第1巻 隠退治と心の陰の克服

 実は時代(伝奇)漫画については、少女漫画が油断できない……というより、質・量ともにかなりの作品がオンゴーイングで展開されているのですが、その中でも注目すべきは秋田書店の諸誌に連載されている作品群ではないでしょうか。本作はその一つ、タイトルどおり女陰陽師と鬼のバディものですが……

 舞台は江戸時代中期、主人公は「神騙り」を自称し、神様の代わりに、金と引き替えに相手の願いを叶えるという胡散臭い稼業の美女・志摩。
 そしてその彼女と行動を共にするのは、アオと呼ばれる青年姿の青鬼――かつて房総で暴れ回り、人喰らい町喰らい嗤う双鬼と恐れられた片割れでありながら、相棒の赤鬼に裏切られ、人間に封印されていた鬼であります。

 その言動に反して(?)無手勝流ながらかなり術を操る志摩は、角を預かる――鬼にとってそれは絶対服従の証なのですが――条件で、アオを使役しているという状況。
 そんな二人が、人の世を騒がす無定型の鬼「隠(おん)」を退治して回るというのが、本作の基本設定であります。


 「鬼」はそもそも中国では人の魂を指し、目に見えぬ存在として「隠」を語源としている、というのはよく知られた話ではないでしょうか。
 本作はそれを、「隠」を、形も無く人に憑き、その意識を喰らう魔と設定し、それが力を蓄えて肉体を得た存在が「鬼」としているのは、なかなか面白いアレンジであります。

 肉体を持つ鬼――それも生まれついての鬼であるアオは、その中でも破格の存在でありますが、志摩だけは頭が上がらず、いつか喰らってやると文字通り歯噛みしつつも協力させられる……
 というシチュエーションも、お約束ではありますが、人間側が脳天気な美女、鬼が無愛想な青年という組み合わせは、なかなか珍しいのではありますまいか。


 正直に申し上げると、本作は時代ものとしては、考証面で粗い部分が見られないでもありません(術描写の粗さを、志摩の「式だの流派だのに縛られんのがやな性分」という言葉でクリアしてしまうのはむしろ感心しますが)。
 行く先々で二人が出会う怪事件が、人に憑いた○○鬼のせい、というのも、何となく人気の妖怪アニメを連想させるところではあります。

 しかし、それでも本作が面白い、各エピソードのゲストキャラが心に抱えた陰の部分とその克服という、ある意味普遍的なシチュエーションが、本作ならではの設定である隠の存在と退治というスタイルに、綺麗に重なってくる点に依るところが大きいでしょう。

 様々な隠の能力と、それに重なり、由来する人々が心の中に抱えた陰。隠を(憑かれた者を傷つけずに)倒すには、憑かれた者自身が、その陰を認識し、乗り越えなければいけない。
 それを時に見守り、時に助け、時に煽る志摩と、文句を言いながらも結果的に志摩を、人を助ける形になるアオという構図も楽しく、文句を言いながらも、小技を効かせた描写や設定の妙も含めて、しっかりと楽しませていただきました。


 まだまだ謎の多い志摩とアオの設定や、そんな二人の関係性とその変化(この第1巻の最終話のラストの描写など、なかなかにいい感じで)など、先が気になる部分も少なくない本作。
 主人公同様に底が見えず、油断できない一作……という表現はいささか失礼かもしれませんが、追いかけてみたい作品がまた増えたのは間違いありません。


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