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2015.06.20

平谷美樹『水滸伝 2 百八つの魔星』 この世界での百八星の意味

 平谷美樹による新たなる反逆の物語、『水滸伝』第2巻の副題は『百八つの魔星』。高キュウに都を追われた王進と出会ったことで、大宋国を揺るがす巨大なうねりに巻き込まれることとなった史進・史儷――九紋龍の兄妹の運命は、謎の男・呉用との出会いで、さらに大きな変転を迎えることになります。

 王進が逗留したことをきっかけに、官軍に襲われることとなった史家村。かつては敵であった少華山の山賊とともに奮戦した史進・史儷ですが、敵の指揮官・耶律猝ゲンによって王進は討たれてしまいます。
 と、そこで史進らの前に現れたのが呉用。三千人の弟子を持ち、天下を覆す百八の魔星を宿した英雄を捜しているという彼は、王進の首の奪還と引き替えに、自分への協力を持ちかけます。

 果たして王進の首を見事奪還した呉用は、史進・史儷、さらに妻の仇を討って都から逐電した林冲と魯達改め魯智深に対し、世直しのために宋国を倒すという大望を打ち明けます。
 その目的のため、林冲は梁山泊へ、魯智深は二竜山へ、そして呉用と史兄妹はウン城県の宋江のもとへ、それぞれ向かうのですが――


 かつて封印から解かれ、この世に災いを齎すべく散ったという百八の魔星。それが転生したのが、梁山泊に集う百八人というのは「水滸伝」お馴染みの設定ですが――さてこの百八星、いささか腑に落ちないところがあります。

 というのもこの百八星の伝説、大まかに言えば原典では序章――この百八星が解放されるくだりと、梁山泊に百八人が集結した際に彼らの照合が一種の天命として示される際に言及されるのみ。
 もちろん読者としてみれば、百八星=百八人は自明のことでありますが、しかしいささか唐突に登場した感はあり――また世を騒がす魔星が、替天行道のために戦うというのも、理屈が通っているようで、やはりどこか捻れているような印象があります。

 もちろんそれは「水滸伝」という物語が、数多くの説話から統合する過程において云々……という理屈はつけられますが、それはあくまでも「外」の話でありましょう。
 こうした点もあってか、後世の水滸伝リライトでは百八星が登場しないものや、甚だしきは百八星が自作自演だったりするものもあるのですが……

 さて、この平谷水滸伝は、(今のところは)妖術などは登場しない、「合理的」な世界観の物語。そんな世界での百八星とは――と、それについてここでは述べませんが、その世界観を踏まえつつも設定された百八つの魔星の存在は、なるほどこの手があったか、というスタイルであります。

 これはある意味、作中の登場人物が「水滸伝」という物語構造を理解した上でそれを利用してみせる、というか、まさしく彼らの戦いこそが「水滸伝」として確立していく様を、我々は見ているのではないか……そんな気持ちにすらなる、実にドラスティックな構造であります。


 などとひねくれたことを書いてしまいましたが、もちろん本作の基本は反骨精神に溢れた豪傑たちの物語。第1巻で登場するメジャーどころの好漢は史進(と史儷)、林冲、魯達くらいでしたが、この巻では柴進・楊志・晁蓋・呉用・公孫勝・阮三兄弟・宋江・武松といったお馴染みの面々が登場と、一気に賑やかになります。

 当然ながら彼らがおとなしくしているはずもなく、原典を踏まえつつも、さらに洗練されたスタイルで大暴れ。特に呉用の活躍ぶりは、様々な「水滸伝」を読んでいる私でも驚くほどで、まず間違いなく、最強クラスの呉用でありましょう(最強すぎて、ちょっと便利すぎるのが気になるところですが……)

 また、梁山泊の長でありつつも、その描き方が実に難しい――よりはっきり言えばその扱いに困る人物である――宋江も、本作では実に「宋江」らしいスキルを持ちつつも、それでいて人間くさい弱みを持った人物として描かれているのが面白い。
 足手まといではないが情けない……ありそうでなかった宋江像はなかなかに新鮮であります。


 そして各地に「出現」した百八つの魔星により、いよいよ本格的に動き出した物語。
 思っていたよりもペースの速い展開が気にならないわけではありませんが、英雄豪傑たちの戦いはまだまだこれから、でありましょう。

 これまでに見たことがあるようで、しかし決して見たことのない、全く新しい百八つの魔星の活躍が少しでも早く、長く目撃できることを期待しています。


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