« 『お江戸ねこぱんち』第十二号 猫時代漫画誌、半年ぶりのお目見え | トップページ | 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語 »

2015.06.02

風野真知雄『猫鳴小路のおそろし屋 3 江戸城奇譚』 ついに明かされる江戸/東京最大の秘密

 江戸は猫鳴小路にひっそりと店を構える骨董品店「おそろし屋」に集まる謎めいた品物に込められた曰く因縁を、これまた謎めいた女主人・お縁が語る『猫鳴小路のおそろし屋』シリーズの第3弾、そして最終巻であります。お縁の運命を変え、現代の子孫にまで受け継がれる秘密の正体が、ついに……

 かつて大奥にいたということを除けば、その過去も、何故骨董品店を開いているのかも謎の女性・お縁。確かなことは、おそろし屋に並ぶ品物が逸品ばかりであり、そして彼女自身がかなりの目利きであること。
 そんな店を訪れた常連たちに、お縁が有名人ゆかりの「品」にまつわる奇想天外な「真実」を語る……本作の全4話中の3話までは、そんなシリーズの基本スタイルに則って展開いたします。

 真田幸村の六文銭の旗、弁慶の高下駄、安倍晴明の式神(!?)……
 今回も、時代も活躍した分野もバラバラながら、それぞれに歴史に名を残した人々の真実、その正体や最期にまつわる奇譚が、一種の歴史ミステリ(歴史上の謎を解く、という意味での)的に語られていくことになるのであります。

 そしてその中に浮かび上がるのは、いかにも作者らしい歴史観、人物観と申しましょうか……
 決して英雄豪傑たちではなく、そんな人々から少し距離を置いた人々を主人公とし、勝者たちの正史ではなく、敗者たちの稗史を描いてきた作者の視点は、しかし本作においても、実は変わることはありません。

 いわば本作、本シリーズで描かれてきたのは、英雄豪傑たちの、その盛名の裏側の素顔、ナマの人間としての部分。多くはそんな彼らの遺品、その最期を共にした品を通じて浮かび上がるのは、そんな彼らの顔なのであります。
(ちなみに、後世の盛名の割りには、同時代人の間には……という幸村像は、作者の初期の名作『幻の城 慶長十七年の凶気』を思わせるものがあってニヤリ)


 しかし、本作はその最終話において、また異なる顔を見せることとなります。

 それまでの3話で描かれてきた歴史奇譚が、本シリーズを構成する横糸だったとすれば、最終話で描かれるのは、お縁自身の物語全体を貫く縦糸の結末――彼女が江戸城を追われ、その後幾人となく刺客に襲われる理由。そして現代の東京において「おそろし屋」を営む子孫が守る秘密の、その正体であります。

 その秘密とは、この江戸=東京の存亡に関わるものだった! というのは、シリーズ第1巻のラストで語られてはいるのですが、もちろん伏せられてきたその詳細。
 今回、第1巻以来久々に現代の「おそろし屋」を舞台に描かれるのは、その謎、そしてその謎が隠された品物の正体なのであります。

 ……と、ここでその謎そのものにはもちろん触れるわけにはいきませんが、しかしその品物の正体は、実に面白い。
 正直に申し上げれば、謎そのものは――本作でも言及される、ある作品のような内容で――それほどものすごいというわけではないのですが、その品物のアイディアは、これは素晴らしい、と言うほかありません。


 正直に申し上げればいささか唐突感は感じられるところはありますし、最終話の展開も、もう少しケレン味があってもよかったのでは、と思わないでもありません。
 その辺り、全3巻という長くも短くもない巻数がマイナスに作用しているのではないか……というのは勝手な想像、縦糸と横糸のバランスは、他のシリーズに比べると今一歩だったという印象はあります。

 しかし毎回毎回、全く異なる時代の異なる人物の、その語られざる秘密を――作者ならではの味付けをたっぷり効かせて――描いてみせるというのは、一種の離れ業というべきでありましょう。
 また最終話で、それまでの物語とまた別のベクトルで人間の等身大の姿と、彼らが求める「奇譚」の意味を描いて見せたのも、個人的には大いに好む展開であります。
(ただし、ラストでそれを、全て言葉で語ってしまったのは残念)

 その意味でも、もう少し長く続いて欲しかった、というのが正直な感想なのですが――


『猫鳴小路のおそろし屋 3 江戸城奇譚』(風野真知雄 角川文庫) Amazon
猫鳴小路のおそろし屋 (3) 江戸城奇譚 (角川文庫)


関連記事
 『猫鳴小路のおそろし屋』(その一) 時間と空間を超えて集まった奇譚たち
 『猫鳴小路のおそろし屋』(その二) 得体の知れぬその店の秘密は
 風野真知雄『猫鳴小路のおそろし屋 2 酒呑童子の盃』 奇譚という名の「真実」たち

|

« 『お江戸ねこぱんち』第十二号 猫時代漫画誌、半年ぶりのお目見え | トップページ | 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61676079

この記事へのトラックバック一覧です: 風野真知雄『猫鳴小路のおそろし屋 3 江戸城奇譚』 ついに明かされる江戸/東京最大の秘密:

« 『お江戸ねこぱんち』第十二号 猫時代漫画誌、半年ぶりのお目見え | トップページ | 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語 »