« 和月伸宏『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』第10巻 絶望と狂気の先にあったもの | トップページ | 平谷美樹『水滸伝 2 百八つの魔星』 この世界での百八星の意味 »

2015.06.19

ひかわきょうこ『お伽もよう綾にしき ふたたび』第5巻 謎の世界の冒険と彼女たちの戦う理由

 もののけを見、呼び出す力を持った娘・鈴音と、幼い頃から彼女を支え、共に戦ってきた日高新九郎の冒険を描く『お伽もよう綾にしき ふたたび』の第5巻であります。平和になった伊摩の国で起きた不思議な事件に挑むこととなった鈴音と新九郎ですが、事態は次々と不可思議な様相を見せることに……

 伊摩の国の寺に現れ、戦死者の名簿を奪って消えたもののけの追跡を命じられた新九郎と鈴音夫婦。物見遊山気分で出発した二人とおじゃる様、現八郎ですが、一行は森の中で不思議な空間に紛れ込み、そこで奇妙な屋敷に足を踏み入れることになります。

 それまであった場所から瞬時に姿を消し、森に、崖に、町に姿を現す屋敷――そこに在ってそこにない、あたかもこの世からずれて存在するような世界では、さしもの鈴音と新九郎たちも右往左往させられる羽目になります。

 果たしてこの屋敷は、世界の正体は。彼らの前に姿を現す謎の術使いは、また鈴音たちが目撃した老婆の正体は。屋敷の周囲で響く車のような音は何なのか。そして、寺から奪われた名簿と一連の怪事の関連は――


 単純に物理的というか霊的というか、力や強さという点では、もはやほとんど敵なしという感のある鈴音と新九郎たち。
 しかしそんな彼女たちの新たなる冒険は、どこに敵がいるのか、いやそもそも敵がいるのかすらわからない謎の状況であった……

 というのが今回の物語であるわけですが、強さのインフレーションに踏み込むことなく、物語を展開させてみせたのはさすがの一言。
 読者であるこちらとしても、終盤近くまで真相が全く見えず、始終異様な雰囲気のまま、大いに――もちろん良い意味で――振り回されました。

 そして明らかになった真相はといえば、これは見ようによってはさまで大事ではない――少なくとも、これまでの事件に比べれば、スケールは小さいように感じられるかもしれません。

 しかしそこで描かれるもの、そしてその中で鈴音たちが救うべく戦ったものは、まさに本作ならではの、本作でこそ描かれるべきものでありましょう。
(特にここで描かれたある人物の姿が、舞台となる戦国時代ならではのものであることを考えればなおさら……)

 そして戦いの果てに描かれるものもまた、まさしく本作らしい救済の姿であり――彼女たちが戦う理由――勝利以外にそこに求めるものを、改めて見せていただいた思いです。


 まさしくお伽話めいた優しい――もちろんそれは甘さと同義ではないのですが――物語を紡ぐ本作。
 今回のエピソードはこの巻で終了となりますが、またいずれ、優しくも力強く、美しい物語を描いてくれることでしょう。


『お伽もよう綾にしき ふたたび』第5巻(ひかわきょうこ 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
お伽もよう綾にしき ふたたび 5 (花とゆめCOMICS)


関連記事
 『お伽もよう綾にしき』第1-3巻 もののけと少女と青年と
 『お伽もよう綾にしき』第4-5巻 二人の想いの先の救い
 『お伽もよう綾にしき ふたたび』第1-2巻 幸福な結末の後の理想的な後日譚
 『お伽もよう綾にしき ふたたび』第3-4巻 過去から繋がる人と人の絆

|

« 和月伸宏『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』第10巻 絶望と狂気の先にあったもの | トップページ | 平谷美樹『水滸伝 2 百八つの魔星』 この世界での百八星の意味 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61744181

この記事へのトラックバック一覧です: ひかわきょうこ『お伽もよう綾にしき ふたたび』第5巻 謎の世界の冒険と彼女たちの戦う理由:

« 和月伸宏『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』第10巻 絶望と狂気の先にあったもの | トップページ | 平谷美樹『水滸伝 2 百八つの魔星』 この世界での百八星の意味 »