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2015.06.05

夢枕獏『おんみょうじ 鬼のおっぺけぽー』 少年晴明とおかしな百鬼夜行

 これまでも積極的に様々なメディアで作品を発表してきた夢枕獏。その新作は、ベテラン・大島妙子と組んでの児童向け絵本、それも主人公は安倍晴明ということで、果たして……と思えば、これがなかなかにユーモラスで、それでいて「らしい」作品でありました。

 夢枕獏で安倍晴明と言えば、言うまでもなく『陰陽師』。安倍晴明と源博雅の名コンビが、児童書の世界でも
 「ゆくか」
 「ゆこう」
 そういうことになったのであった
ということになるのかと思いきや、さにあらず。
 本作のタイトルは『陰陽師』ではなく『おんみょうじ』……大陰陽師となる遙か以前の少年時代に、百鬼夜行と行き当たった晴明の姿を描く物語であります。

 この少年晴明と百鬼夜行のエピソードは、晴明ものであれば必ずといってよいほど取り上げられるものなので、ご存じの方も多いでしょう。

 『今昔物語集』の『安部晴明随忠行習道語』で描かれるこの伝説は、師・賀茂忠行の夜行に付き添っていた晴明が、鬼の群れがやってくるのにいち早く気付き、師に教えて難を逃れたというもの。
 実にこの時が、晴明がその才能を見せた端緒と言うべきか、これに感心した忠行は、晴明に陰陽道の全てを教えることとした……というこのエピソードは、『陰陽師』シリーズでも『瀧夜叉姫』で描かれていたかと思いますが、本作はそれとは全く関係を持たないお話であります。

 本作、内容的には、ほぼこの原典どおりの展開なのですが、この百鬼夜行、
「ひとは おらぬか おっぺけぽー。いたら くっちゃえ くっぺけぽー」
 などと賑やかに歌い囃しながら夜道を行く(本作のタイトルがここから採られていることは言うまでもありません)のが何ともユーモラス。
 そしてその鬼たちも、いわゆる「鬼」だけではなく、何がなにやらよくわからない連中も混じった、まさに――中世の百鬼夜行絵巻のそれのような――魑魅魍魎の群れなのですが、そこがまたなかなかに魅力的です。

 夢枕作品での百鬼夜行というのは、これはしばしば登場している印象があって、ファンであれば「あれか」という定番の描写があるのですが、本作の描写はそれと少し異なるものではあります(まあ、中には児童書に出せないようなビジュアルの者もいるのですが)
 しかし本作の百鬼夜行から全体として受けるイメージは、これまでとは変わらぬ、人とは異なるモノであり、人とは異なるロジックで動きながらも、どこか人間くさく、愛嬌のある――そして恐ろしい連中にほかなりません。

 そのイメージは、大島妙子の筆によって具現化されているのももちろんですが、それを「おっぺけぽー」という、間の抜けたようでどこか不気味なフレーズで象徴するのもまた巧みというべきでしょうか。

 この作者、このタイトルゆえに期待してしまう点はありますし、そしてそれを期待すれば満たされるところはないでしょう。
 しかしそれとは全く異なる、自由でおかしな、そしてちょっと恐ろしい空想――ラスト一ページの晴明の姿には、本作の本来の読者である子供たちは共感するのではと感じます――を求める分には、本作はなかなかに楽しい一冊であります。

 考えてみれば、伝奇バイオレンスの旗手として登場する前は、『猫弾きのオルオラネ』のようなメルヘン色の強いファンタジーを発表していた作者。
 そんな作者の(最近では隠れがちな)個性と、お馴染みの題材が組み合わさった、ユニークな作品と言うべきでしょうか。


『おんみょうじ 鬼のおっぺけぽー』(夢枕獏&大島妙子 講談社) Amazon
おんみょうじ 鬼のおっぺけぽー (講談社の創作絵本)


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