« 7月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 辻真先『未来S高校航時部レポート 戦国OSAKA夏の陣』 大坂城に消えたアンドロイドの謎を追え! »

2015.06.15

鈴木英治『梟の裂く闇』 失われた過去と現在の復讐と

 肥後の山村で、妻子と平和に暮らす谷五郎には、十数年より以前の記憶がなかった。ある日、村に押し寄せた相良家の兵と戦う中、凄まじい戦闘力を見せた五郎の中で甦る記憶の一端。己の過去を求めて江戸に向かった彼は、自分を知る水野勝成と出会うが、勝成もまた、何者かに狙われていた……

 ある意味文庫書き下ろし時代小説の定番スタイルの作品を量産する一方で、骨太の戦国サスペンスとも言うべき作品を発表する鈴木英治。本作は、そんな作者ならではの、ミステリアスな忍者活劇であります。

 関ヶ原の戦の直後、水野勝成の密命を受けて大垣城に潜入した伊賀者・霧生滋兵衛。彼の働きにより守将の相良頼房らが寝返ったことで、城は容易く落城した……というのがいわばプロローグ。
 本編はそれから30年後、肥後国白泉村から始まります。

 突如村を襲った藩主の兵により、平穏な暮らしを奪われた記憶喪失の男・谷五郎。その混乱の中で思いもよらぬ武術・体術の冴えを見せた彼は、その際の衝撃がもとで、己の真の名前を思い出します。その名は霧生重蔵――

 復讐のため藩主・相良頼房を追いつめ、相手の口から、水野勝成の名が出るのを耳にした重蔵。まだ名前以外のほとんどを思い出せぬ重蔵は、わずかに残った記憶を頼りに江戸に向かうのですが、その途中で彼を謎の忍びたちが襲います。

 一方、江戸の水野勝成の前にも、素手で恐るべき破壊力を持つ武術の遣い手が出現。からくも魔手を逃れた勝成と対面した重蔵は、ついに己の過去の一端を知るのですが……


 血塗られた過去を持ちながらもそれを捨て、今は平穏に暮らす腕利きの男が、ある日突然襲いかかる暴力に平和な暮らしを奪われ、復讐のために再び戦いの世界に舞い戻る――
 これは古今東西のバイオレンスものでおなじみのパターンかと思いますが、本作もその系譜に属する作品と言えるでしょう。

 しかし本作の最大の特徴は、その主人公の正体が――主人公本人にも――謎であり、そして主人公の復讐行の中で、その謎が徐々に明かされていくという、ミステリタッチの展開にあります。

 何しろ、まず驚かされるのは、上に述べたとおり、プロローグから本編の間に30年もの時が流れ、一見何の関連もないような物語が展開していくこと。
 しかしその物語の中に現れる様々なピースが組み合わさっていくことで一つの画が浮かびあがり、物語冒頭のそれに重なっていくのには、何とも痺れます。

 そしてその物語が、本作の舞台となる江戸時代前期の世界と密接に結びついていくことが、徐々に露わになっていくのも心憎く――この辺りの呼吸は、これまで数多くの時代ミステリを発表してきた作者ならでは、と言って良いでしょう。

 また、物語の中で展開される死闘の多くが、最近の時代小説界ではだいぶ珍しくなってしまった、忍者と忍者の、己の身体能力を限界まで使った戦いであるのも、また嬉しいところであります。


 もっとも、戦いの果てに示される真相が、もう少し意外なものであってもよかったとは思いますし、また本作の縦糸と横糸とも言うべき、重蔵の物語と勝成の物語が、もっと有機的に結びついてもよかった、とは思わないでもありません。

 ……が、これは物事にドラマチックな意味を見出したがりすぎるという、伝奇好きの悪癖かもしれません。
 本作の真相と、その原因となった想いを考えれば、そこに主人公にとってドラマチックな意味がない(というのは言い過ぎかもしれませんが)ことこそに、意味があるようにも感じられます。

 多くの命を奪うことで動いていく歴史の流れ。そこに巻き込まれたとき、個人に抗う術はあるのか。
 本作に描かれたものは、その闇の深さと、その中でも消えることない一筋の光である――というのは、さすがに格好良すぎるかもしれませんが。


『梟の裂く闇』(鈴木英治 角川文庫) Amazon
梟の裂く闇 (角川文庫)

|

« 7月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 辻真先『未来S高校航時部レポート 戦国OSAKA夏の陣』 大坂城に消えたアンドロイドの謎を追え! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61743054

この記事へのトラックバック一覧です: 鈴木英治『梟の裂く闇』 失われた過去と現在の復讐と:

« 7月の時代伝奇アイテム発売スケジュール | トップページ | 辻真先『未来S高校航時部レポート 戦国OSAKA夏の陣』 大坂城に消えたアンドロイドの謎を追え! »