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2015.06.06

瀬川貴次『鬼舞 見習い陰陽師と囚われた蝶』 最終章突入、新たなる魔の影

 約半年ぶりの『鬼舞』シリーズ最新巻、早いものでもう15巻作の『鬼舞』であります。前作は本編の合間の番外編でしたが、この巻から新章スタート――というより、帯などでは「最終章スタート」と書かれていて少々ショックですが、何はともあれ、道冬の前に、新たな魔の影が現れることとなります。

 都を襲った呪天と茨木もひとまず去り、道冬の中に眠っていた「漆黒」も何とか押さえ込むことができて、一時の平穏を取り戻すことができた都と道冬の周囲。
 そんな中、数々の事件で手薄となった陰陽寮の補強のため、安倍吉平を学生から正式な陰陽師へ昇格させようという話が出たのが、今回の物語の発端となります。

 本来であればめでたい話ですが、ここで吉平が兄馬鹿ぶりを発揮、「吉昌も一緒でなくてはイヤだ」と言い出したのに対し、吉昌は「後身の育成を」とこれを辞退。
 それなら後進が――すなわち道冬たちが――育てばよいのでしょうと、吉平に引きずられるように、吉昌や道冬は、いつぞや特訓合宿を行った山寺に再び合宿をする羽目になるのでありました。

 一方、彼らが留守をしている間に道冬の住む河原院に盗賊が忍び込み、偶然その盗賊を追いかけることとなった渡辺綱と彼の主君・源頼光。
 盗賊の住処に乗り込んだ頼光は、そこで囚われの身となっていた記憶喪失の美女・胡蝶と出会い、一目で恋に落ちることとなります。
 しかしそこに現れたのは、頼光の妾腹の兄であり、人間悪を集めたような俗物・頼勝(ちなみに架空の存在です)。彼は胡蝶に目を付け、力尽くで頼光のもとから奪い取ってしまい……


 と、一見全く関係ないように見える二つの出来事が微妙に関わり合い、動き出していく今回の物語。
 新章の始まりということで、まだ動きは控えめでありますが――特に道冬の宿命とどう絡んでいくのか、まだ見えないのですが――なかなかに気を持たせてくれる展開です。

 そんな本作で注目すべきは、やはり今回(おそらく)初登場の源頼光でしょう。

 渡辺綱は、これまでも道冬の親友としてシリーズレギュラーとして活躍してきましたが、言うまでもなく頼光はその主君。
 後に綱たちとともに酒呑童子や土蜘蛛を退治したと言われる頼光ですが、本作では、武士でありつつもどこか典雅な部分を持つ貴公子として描かれます。

 言うまでもなく酒呑童子といえば、本作で暗躍する怨念の鬼・呪天のことが思い浮かべざるを得ません。
 そして彼が心を寄せる薄幸の美女、タイトルロールとも言うべき胡蝶もまたワケありと、この先、おそらくは頼光がシリーズの中で大きな位置を占めていくのでありましょう。
(にしても、ようやくヒロインらしいヒロイン登場したと思えば、道冬の相手役ではないのがまた、本作らしいと言うべきか……)

 本作の終盤で言及される、胡蝶がかつて暮らしていた地の名を思えば、この先の展開は何となく予想できるのですが……


 冒頭に述べたとおり、ついに最終章に突入した『鬼舞』。こんなに早く最終章!? という印象は正直なところありますが、前作に当たる(と言ってよいものでしょうか)『暗夜鬼譚』が全23巻だったことを考えれば、さまで短いということはないのかもしれません。

 だとすれば後は最終章で何が描かれることとなるのか、それを楽しむことだけでしょう。
 そしてその点については、この作者であれば全く心配はないと……この点には、ほぼ自信を持っているのであります。


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鬼舞 見習い陰陽師と囚われた蝶 (コバルト文庫 せ 1-55)


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