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2015.06.27

鳴海丈『あやかし小町 大江戸怪異事件帳』 アップデートされた原点のアイディア

 時代バイオレンスといえばこの人、と言うべき鳴海丈ですが、その一方で、若く正義感の強い同心らが、弱き人々を救うために活躍する捕物帖も得意としています。本作は後者の系譜に属する作品ですが――しかしこれまでの作品と一風変わっているのは、そこに「あやかし」の語があることであります。

 病で隠居した父の跡を継ぎ、若くして北町奉行所の定町廻り同心となった和泉京之介。頭脳明晰で剣の達人、正義感に溢れる美丈夫と言うことなしの京之介ですが、さしもの彼も、目下抱える事件には頭を抱えるばかり。

 さる商家で起きた殺人事件――豪商の一人娘が蔵の中から姿を消し、残されたのは胸に匕首を刺された男の死体。
 完全な密室と化した蔵の中で、娘はどこへ消えたのか。そして男を刺した下手人は誰で、やはりどこへ消えたのか……?

 常識では解明できそうにない事件に対し、京之介の岡っ引き・岩太が持ってきたのは、いま巷で話題の「うわばみ小町」お光。
 たおやかな美少女でありながら、まるで見てきたように失せ物や人を捜しだし、お代は酒を一升のみ……

 不承不承、お光の手を借りることとなった京之介ですが、その間にも第二、第三の事件が発生、果たして入り組んだ事件の背後にあるものは、そしてお光に隠された秘密とは……


 と、お光の存在を除けば、人物配置や物語は、基本的に正当派の捕物帖である本作。しかしもちろん、そのお光こそが本作の肝。言うまでもなく彼女こそタイトルロールのうわばみ……いやさ「あやかし小町」なのであります。
 そう、彼女の力の源は、彼女に憑いた「あやかし」。詳細は伏せますが、ある事情で彼女に憑いた妖怪の力を借りて人助けする彼女と、その秘密を知ってしまった京之介と――本作は二人を中心に展開する全三話で構成されています。

 そんな本作は、今風(?)に言えば超能力探偵ものということになるでしょうか。
 しかし多くの超能力探偵もの同様、本作も、決して便利な超能力だけで事件が解決するわけではありません。お光の力はあくまでも限定的なもの――彼女の力を持ってしてもわからぬほど入り組んだ事件をどう解きほぐしていくか?

 こうした舞台設定と物語運び――決してものすごく凝ったことをしているわけではないのですが、それなりに読ませてくれるこの辺りの技の利かせようは、冒頭に述べたとおり、数多くの捕物帖を著してきた作者ならではでしょう。


 さて、本作の裏表紙に記されたところによれば、本作は「著者がデビュー以来あたためてきた」作品とのこと。
 こうした謳い文句は得てして大げさなこっとも少なくないのですが……あとがきを見てみれば、本当に本作は作者がデビューした集英社コバルト文庫の頃から構想していた作品であることに間違いないようです。
(何しろ、作者初の時代ジュヴナイル『大江戸えいりあん草紙』の名がいきなり飛び出してくるのだから嬉しい)

 今でこそ妖怪時代小説、その中でも妖怪もの+捕物帖という趣向は比較的よく見られるものですが、作者がデビューした数十年前では確かに非常に珍しい。
 本作は、その頃からのアイディアが今になって美しい花を咲かせたもの……というのはいささかロマンチックな表現に過ぎるかもしれませんが。

 デビュー当時からの作者のアイディアを、今の作者の力量でアップデートしてみせた本作。
 内容的には肩の凝らない、さらりと読める作品ですが、こうした背景事情を踏まえてみると、なかなかに感慨深いものがあります。


 ちなみに、主人公が可愛らしいわりには、女と見れば手込めにしようとする悪人がやたらと登場したり、人殺しを生業とする死客人/処刑人が登場したりと、バイオレンスフルな香りが漂うのも、今の作者らしいと言えば言えるのかも……というのはもちろん蛇足でありましょう。


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