« 鳴神響一『鬼船の城塞』 江戸の海に戦う男たち | トップページ | 吉川景都『子どもと十字架 天正遣欧少年使節』上巻 少年使節の背負ったもの »

2015.07.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第13巻 突かれたケンの弱点!?

 西洋料理を封印され、そして同じ現代人が果心居士として登場と、前巻ではケンにとっては激動の展開が続いた『信長のシェフ』。この第13巻においては、比較的静かな展開……と言いたいところですが、甲斐から京、越後、そして再び京と、文字通り東奔西走しての相変わらずの活躍ぶりであります。

 浅井・朝倉を破り、本願寺とも休戦と、最大の危機を脱したかに見える信長。
 しかし信玄は没したとはいえ、武田家には勝頼があり、そして信長が将軍義昭を追放したことを憤る謙信も、いつ敵に回るかわからない状況であります。

 かくてこの巻では、信玄亡き後の武田家の動向を探り、そして上杉を敵に回さぬよう、ケンはいわば外交交渉に赴くこととなります。
 さて、武田勝頼の方は、以前にも登場した(それどころかケンの恋敵でもある)わけですが、謙信の方はほぼ初登場。
 その謙信に対して、ケンが如何に挑むか。何しろ謙信といえば己を厳しく律した人物、当然美食などに現を抜かすわけはないのですが……あ、ありました、大好きな飲み物が。

 というわけで思わぬやり方で謙信攻略に臨むケンですが、実はその前段階とも言うべきエピソードがこの巻にはあります。
 それは狩野永徳との対面。永徳、謙信、信長――とくれば、おわかりの方も多いでしょう。そう、あの名品の入手にケンが一役買うのですが、しかしそれに永徳が出した条件が実に面白い。

 永徳の条件、それは「セイヨウ料理」を自分に食べさせること……そう、冒頭に述べたとおり、ケンは現在西洋料理を作ることを本願寺顕如との約定により封じられており、作りたくとも作れない状態、ある意味最大の弱点を突かれた形となったわけですが――

 前の巻で描かれたこの西洋料理封印、いささか唐突感があった上に、さすがに無理があるのでは……と思ったのは事実(正直なところ、作品外での理由を考えてしまうほどだったのですがそれはともかく)。
 もしかするとこの辺りはこの先スルーされて西洋料理のせの時もでないのでは? などと考えてしまったのが私の浅はかさ、かなり早い段階で、ケンのピンチをもたらす展開として使われたのには感心いたしました。


 さて、ケンが活躍を続ける一方で、暗躍するのが果心居士。
 現代ではケンが勤めていたホテルの給仕長(支配人)という地位にあっただけあって、人の心を察知し、その懐に入り込むことに長けているという設定が実に面白いのですが、この巻において、彼の目的が徐々に明らかになっていくこととなります。

 この巻のラストのエピソード、帝を巡る物語では、表舞台で活躍するケンと、歴史の裏側で暗躍する果心居士という形が、ある意味期せずして重なり合う――ケンが不可能を可能にしてしまったことが、果心の予言を成立させてしまう――というのが実に面白いのです。

 まだまだ先のこと(というのは、これも未来人視点ですが)とはいえ、本能寺の変への布石も描かれはじめ、まだまだ油断のできない本作。
 送り手側の体制は変わりましたが、面白さには変わりはなさそうで、まずは安心しているところであります。


『信長のシェフ』第13巻(梶川卓郎 芳文社コミックス) Amazon
信長のシェフ 13 (芳文社コミックス)


関連記事
 「信長のシェフ」第1巻
 「信長のシェフ」第2巻 料理を通した信長伝!?
 「信長のシェフ」第3巻 戦国の食に人間を見る
 「信長のシェフ」第4巻 姉川の合戦を動かす料理
 「信長のシェフ」第5巻 未来人ケンにライバル登場!?
 「信長のシェフ」第6巻 一つの別れと一つの出会い
 「信長のシェフ」第7巻 料理が語る焼き討ちの真相
 「信長のシェフ」第8巻 転職、信玄のシェフ?
 「信長のシェフ」第9巻 三方ヶ原に出す料理は
 「信長のシェフ」第10巻 交渉という戦に臨む料理人
 『信長のシェフ』第11巻 ケン、料理で家族を引き裂く!?
 『信長のシェフ』第12巻 急展開、新たなる男の名は

|

« 鳴神響一『鬼船の城塞』 江戸の海に戦う男たち | トップページ | 吉川景都『子どもと十字架 天正遣欧少年使節』上巻 少年使節の背負ったもの »

コメント

ケンと同時代人の生き残りで一番壊れているのが果心でしょうな。まあ、喉やられたみたいですし死にかけたのでしょう。で、望んでいるのが俗っぽいし、人を操る浅ましさが嫌われたんだろうな。秀吉は案外そこを知っていて「落とし前はつける」と思って近づけていたのかも知れませんね。
 ようこと信長は会っていませんが彼女に会ったら「本願寺にいられなくなったら儂の所に来い」位は言いそうに思えますね。彼女なりの「筋」を通したこと。楓の事で交渉が出来た理由を聞いたら「気骨ある女子じゃ。ケンと縁あると聞いておるが」と案外気に入りそうに思えますね。濃姫付きの「菓子職人」として護衛兼弟子に楓をつけてとか厚遇しそうだ。まあ、その前に顕如の態度とかみていると彼の愛妾でもあるように思えますが。もし、ようこが死ぬことがあったら彼女の亡骸を自ら抱いて「ようこは私が、私の手で弔います。彼女は…」と言葉を切ってから「ようこは私のものです」と言って、亡骸を抱えて他のものがいない所まで行った辺りでつうっと頬を涙がつたってとかありそうに思えますね。
 一方のケンは一体何カ国の料理つくれるんだこいつは。トルコ料理まで。なんかこっちで何冊か料理の本書いていましたというオチあっても不思議では無さそう。
 問題は光秀ですね。果心の毒がじっくりと効いていくんでしょうけど。皮肉ですが、我々の知っている歴史は「ケン達が動いた結果」でもあるのだとしたら「その時」ケンは何を選ぶんでしょうね?

投稿: almanos | 2015.07.22 14:14

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/61924637

この記事へのトラックバック一覧です: 梶川卓郎『信長のシェフ』第13巻 突かれたケンの弱点!?:

« 鳴神響一『鬼船の城塞』 江戸の海に戦う男たち | トップページ | 吉川景都『子どもと十字架 天正遣欧少年使節』上巻 少年使節の背負ったもの »