出店宇生『アインシュタイン1904』 魔法を打ち破るこの世の「法則」
日露戦争で猛威を振るうロシアの死なない兵隊の謎を追う明石元二郎がスイスで出会った自称天才科学者・アインシュタイン。生きる死体の謎を忽ち解き明かしたアインシュタインと行動を共にすることとなった元二郎だが、その前に次々と奇怪な魔法を操る敵が出現する。科学と魔法の対決の行方は……?
私もこれまで色々な伝奇ものを読んできましたが、ちょっと本作の組み合わせはお目にかかったことはありません。
日露戦争中に対露工作活動に従事した明石元二郎大佐……は、さまで珍しくはないとしてその相棒が、あのアルバート・アインシュタイン! 言うまでもなく、相対性理論のあのアインシュタインであります。
あまりにも意外な組み合わせですが、しかし、タイトルにある「1904」――すなわち1904年においては、二人とも同じスイスに滞在していました。
アインシュタインにとって1904年は、翌年に「特殊相対性理論」をはじめとする数々の論文を発表することとなる直前の年。そして明石にとっては、レーニンと会談し、後の革命成功に筋道をつけて、日露戦争に多大な貢献を為したと言われる年……
そんな1904年に二人が出会い、こともあろうに奇怪な魔術を操る一団と戦っていたというのですから、大いに心惹かれるではありませんか。
しかもその魔術師たちを率いるのは、明石の宿敵(……は別の作品ですが)ラスプーチン。
そのラスプーチンらが操るゾンビに吸血鬼、古怪な魔術の数々との激闘が繰り広げられる中、物語は英国に移り、00ナンバーを持つスパイ(のモデルになった人物)や、こともあろうに悪役として○○○・○○○までも登場、いやはや、こちらの好みをピンポイントで突かれた思いです。
しかし題材以上に嬉しいのは、本作におけるアインシュタインの立ち位置――言い換えれば、科学と魔法の関係であります。
本作における魔法とは、(科学者と魔術師が対立する作品にはままあるように)トリックなどではなく、歴とした超自然的な力を操る術。真っ向からぶつかれば、科学には――アインシュタインには――分の悪い勝負とならざるを得ません。
しかし、その力は、その力の源は超自然のものであったとしても、その力が引き起こした現象は、あくまでもこの世の法に――すなわち物理法則に従う、というのが本作のスタイル。
そして本作のアインシュタインは、まさにこの「法則」をもって、奇怪な魔術の数々と激突し、打ち破っていくのであります。
正面からのぶつかり合いでは攻略不可能な敵を相手に、一定のルールの下で発揮される知恵と機転で逆転するというのはバトルものの醍醐味の一つですが、本作でアインシュタインが見せるのはまさにそれ。
魔法に対する科学の勝利を、ある種そのロジカルな根源の部分で描いて見せたのには感服いたします。
(そしてもちろん、彼をサポートし、その理論を実践に移してみせる明石の存在もまた、不可欠なのであります)
……と言いつつも、後半に行くにつれ、アインシュタインもほとんど魔法使いとなってしまったように見えてしまうのはいささか残念なところではありますし、敵対する魔術師の術が、いかにもゲーム的なものに見えてしまうのも、引っかからないわけではありません(後者は、科学との対比で敢えてそう描いているのだと思いますが)。
残念ながらラストは「俺たちの戦いはこれからだ!」でありますし、登場する固有名詞に、どこかで見たものが混じっているのもちょっと……で、手放しで大傑作というのは躊躇うところではあります。
しかし――やはり、この作品ならではのもの、この作品でなくては描けないものを見せてくれたという点では、本作は、唯一無二の快作というべきでしょう。。
「神はサイコロなど振らんよ」という言葉を、これだけ格好良く使ってみせる作品は、空前絶後でありましょうから……
『アインシュタイン1904』(出店宇生&大井昌和 白泉社ジェッツコミックス 全2巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon


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