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2015.07.08

『妖怪奇聞 異譚』からの2編 明治の文士と絵師の怪異譚

 少年画報社からコンビニコミックの妖怪漫画アンソロジー『妖怪奇聞 異譚』が発売されました。短編が22本と中編1本が収録された本書、大半が現代ものなのですが、中編は明治もの、そして短編に永尾まるの『ななし奇聞』新作があるのは見逃せません。というわけで今回はこの2編を取り上げましょう。

 その中編、『物見の文士 怪篇酒呑童子事件』(えす☆おう)は、明治初頭を舞台に、その著作の全てが現存しないと言われている怪奇幻想小説家・夜都木周平を狂言回しとした物語です。

 売れっ子ながら暢気で昼行灯の夜都木先生、締め切り間際になってもネタがなく呻吟していたところに舞い込んできたのは、巷を騒がす連続殺人事件。
 山の手界隈で、夜一人歩きしている者が次々と斬殺され、首を切り取られて持ち去られるというこの事件、死体の側には、自分は怨みから首を求める酒呑童子だ」というビラが残されていたことから、酒呑童子事件と呼ばれていたのでありました。

 これは良い題材と事件を嗅ぎ回り始めた夜都木先生ですが、鬼の仕業という巷間の噂に対して、彼は別の印象を抱くのですが――

 鬼の仕業か、はたまたその他のモノの仕業か。夜都木先生が「鬼」の在り方から事件の裏を察するのを、一つ一つの小さな要素の積み重ねから描くミステリ的趣向が面白い一方で、しかしさらにその奥に……という一ひねりもいい。

 最大の問題は東京に酒呑童子、という時点で違和感が大きすぎる点ですが……(事件の真相から考えればまあありといえばありなのかもしれませんが)
 夜都木先生のキャラクターも面白く、続編を読んでみたい作品ではあります。


 一方、久々登場の『ななし奇聞』は『妖怪 伍伴』のタイトル。
 そもそも『ななし奇聞』とは放浪の美男絵師・七篠晩鳥(ななしのばんとり)先生を狂言回しにした連作短編集。明治初期を舞台に、人ならざるものを見る力を持つ晩鳥先生が各地で出会った妖怪ちょっといい話を描くシリーズですが、今回はちょっと趣向の変わった番外編的味わいの一編(そもそも、晩鳥先生の名前も出てこないのですが)。

 許嫁に不幸のあった名家の青年。悲しみに沈む彼の心中にあるものは果たして……
 と、人の心の陰に潜むものを、出雲風土記の阿用郷の鬼の逸話を引いて描いた本作は、わずか10ページではありますが、ビジュアルといい展開といい、綺麗にまとまった掌編というほかありません。

 特にラスト2ページに描かれるモノは、恐ろしくもどこか美しく、そして民話めいた味わいすらあって――いつもよりも些か、いやかなり血腥い内容ではありますが、さすがにこの作者ならでは、という印象です。
(「伴侶」を指す「伍伴」をタイトルに持っていくのもまたいい)


 正直に申し上げて、個人的に短編ホラー定番のオチが苦手と言うこともあって苦手な部類に属することもあり、少々厳しく感じた本書ですが、この2編に出会えただけで、個人的には良かった……とは思います。
(もっとも、この2編も結末はそれに近いものはあるのですが)

 それぞれ文士と絵師が主人公、時代もほとんど同じ……というのに不思議な因縁を感じるのは、これはこちらの勝手な感慨ではありますが。


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