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2015.07.09

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第2巻・第3巻 敵を破る痛快さと蹂躙される悲惨さと

 蒙古の九州襲来――文永の役を独自の視点から描いた『アンゴルモア 元寇合戦記』の続巻であります。第1巻では主人公サイドの紹介と、いよいよ蒙古襲来、という辺りがメインとなりましたが、いよいよ第2巻からは蒙古軍との死闘が本格的に始まることとなります。

 第1巻の発売時にあれだけテンションを上げたにもかかわらず、第2巻発売時から何となく紹介のタイミングを逃し、第3巻が刊行されたのはお恥ずかしい限りですが、今回2巻まとめて紹介いたしましょう。

 流人として対馬に流されてきた元御家人の朽井迅三郎。しかし対馬は蒙古軍の襲来目前、是も非もなく戦いに巻き込まれた迅三郎は、武運拙く討たれた対馬の地頭代・宗助国に替わり、助国の娘・輝日姫を支えて立つことに――

 という第1巻から続く2巻以降は、もうひたすら戦闘また戦闘の屍山血河。武装も兵力も圧倒的に上回る蒙古を相手に、寡兵であるどころか、避難民たちを抱えた迅三郎たちは如何に戦い、そして如何に逃げるか?
 と、寡兵かつ絶望的な状況で強大な敵に挑むというのは、ある意味軍事冒険ものの定番パターンの一つではありますが、しかし面白がるにはあまりにも深刻すぎるのがこの戦い。

 迅三郎の戦の潮目を読む目の確かさと奇策、そして類い希な武術の腕、さらに剽悍な流人たちの暴れっぷりも相まって、局所局所では痛快な勝利を収めるものの、しかし全体としては劣勢……いや、むしろ絶望的な状況に叩き込まれる、その緩急つけた物語展開はお見事と言うべきでしょう。

 その一方で、蒙古襲来に遡ること約250年前の外寇たる刀伊の入寇の際の防人たちの残党(!)・刀伊祓なる一団が第三勢力として登場、さらに彼らが奉じるのはなんと……という伝奇的展開もたまらない。
 高麗・女真・蒙古と一種の他民族部隊であった当時の蒙古軍を体現するように、様々な武器と戦略を持った敵軍・敵将が登場するのもまた、バトル漫画的盛り上がりをもたらしていると申せましょう。


 ……と、実に私好みの作品ではあるのですが、しかし第2巻発売の際に紹介できず、今まで引っ張ってしまったのは、上で軽く触れたように、エンターテイメントとするにはあまりに深刻すぎる題材に、こちらが考え込んでしまったためであります。

 これが、日本軍対蒙古軍の戦いのみであれば、それこそ拍手喝采で楽しく読むことができるでしょう。
 しかし本作で描かれるのは、そうした(ある意味実に日本的な)武将と武将の名誉を賭けた戦いとは一種無縁の潰し合いであり、そして何よりも、非戦闘民たちが巻き込まれていく点で――そしてそこに弱き者の哀しさ・醜さも表れる点で――なかなかにキツいものがあります。

 もちろんそれが戦争――それも(被)侵略戦争と言えばそれまでではありますが、寡兵で多勢を打ち砕く迅三郎たちの痛快な活躍と、蹂躙されていく人々の悲惨さにどう折り合いをつけたものか、個人的には悩んでいるところなのです。


 もちろんこれはこの時点までの勝手な印象、ここから先に、それを昇華した展開があるとも、作者の腕前を考えれば期待できましょう。
 それを楽しみに、次なる巻を待っているところであります。

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