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2015.07.05

やまあき道屯『明治骨董奇譚 ゆめじい』第3巻 怪異の背後にあったものは

 明治時代の今日を舞台に、博覧強記にして物に込められた念を感じる不思議な力を持ち――そして阿漕な骨董品店主・ゆめじいを主人公とした連作シリーズの最終巻であります。今回も様々な品物、様々な想いが描かれる中で、長きにわたり描かれてきた因縁にも、一つの終止符が打たれることになります。

 第2巻の後半で描かれた、己のために他者の命を奪うことを罪とも思わぬ若き華族・観世と、彼に兄の命を奪われ復讐の魔と化した少女・千代の戦い。観世が操る霊能少年の存在も絡み、思わぬ方向に物語はスケールアップしていき、果たして本作はどこに向かってしまうのか……
 と心配していたのですが、その懸念はこの巻の冒頭であっさり払拭され、最終話を除いては、文字通りの通常営業といった趣の物語となります。

 すなわち、人の強い想いが込められた品物が引き起こす怪事を、ゆめじいが(一儲けを企みつつ)解決していく――時に恐ろしく、時にもの悲しく、時に可笑しい、そんな短編の数々が、この巻では描かれていくのであります。

 竈に取り憑いた食通の幽霊との博識合戦「竈幽霊」、不思議なため息の怪が京に蔓延していく「嘆きの生霊」、不幸な運命から裏街道に踏み込んだ少年が人生のやり直しを選んだ果てを描く「蛇飯」、夏の盛りに凍り付いた川の怪に対するゆめじいの奇計「凍てつく川」、人をミイラにする奇怪な木に込められた怨念と愛情を描く「希う音色」、姿を消した人形遣いを追う浄瑠璃人形という怪事が思わぬ方向に転がっていく「浄瑠璃人形」、エジプトに向かったゆめじいが、とんでもない相手の霊魂と謎々勝負を繰り広げる「異郷奇譚」……

 いずれも本作らしい一ひねりも二ひねりもあるエピソード揃いですが、今回特に印象に残るのは「浄瑠璃人形」。
 二代目襲名を前に突然出奔した人形遣いの青年を追って、夜ごと浄瑠璃人形が人々を襲うという事件から始まり、一座の頭取や青年の師匠に頼まれて青年の行方を捜すゆめじいが知った彼の隠された事情とは……

 という本作、怪奇ムード濃厚な冒頭から、愚かしくもいじましい青年の想い(何故彼が今この時に姿を消したのか、という理由に感嘆)や、不器用な師弟愛が描かれた上に、最後の最後に何と! というどんでん返しが――
 と、目まぐるしくも一つ一つの要素がきっちりと結びつきあって一つの美しい物語を作り出しているのが実に良いのであります。

 オチは美しすぎるかもしれませんが、男の愚かさを包み込んでしまう女の愛情という一種普遍的なシチュエーションを、何とも小粋でどこかすっとぼけた味わいに仕立て上げているのは、本作ならではでしょう。この巻、いや本作随一の名品とかと思います。
(その一方で、続く「異郷奇譚」はとんでもない怪作なのも楽しい)


 そして最終話に描かれるのは、再びの観世との対決。おぞましい悪事を重ねる観世の前に現れた者は、そして彼の隠された過去とは……その果てに、物語は意外な結末を迎えることとなります。

 人の負の側面をも容赦なく描いてきた本作においても、良心の完全に欠落した極めつきの邪悪と言うべき観世。その彼が――そしてもう一人、彼と深い因縁を持つ人物が――最後に一種の人間性を見せるという展開は、ある意味定番のものと感じられるかもしれません。
 しかしそれこそは、本作を通じて描かれてきたもの――人間の想いの強さ、怖さ、美しさを象徴するものであります。

 どれほど恐るべき事件であっても、奇怪な怪奇現象であっても、その背後にあるのは化け物などではなく、人間の存在である……
 それはひどく恐ろしく悲しいことであると同時に、一方でどこか心安まるものでありましょう。

 人間である限り、どこかで想いを通じ合わせることができる――というのは楽観的に過ぎるとしても、少なくともその想いを理解することはできるかもしれないのですから。


 と、そんな美しい物語の狂言回しとしてはあまりにも俗っぽく、そして阿漕なゆめじいですが、それもまた人間の姿であり、どんな想いを前にしても変わらぬ彼の姿あってこその本作であることは言うまでもありません。
 本作はここで幕となりますが、人が人である限り、人の想いも絶えないものであることは言うまでもありません。
 だとすれば、いつかまたゆめじいに出会えるかもしれない……そんな想像するのも許されましょう。


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