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2015.07.16

歌舞伎NEXT『阿弖流為』 世に出るべくして出た物語

 劇団☆新感線の舞台『アテルイ』について先日紹介しましたが、その上演から13年後の今年、歌舞伎『阿弖流為』として復活しました。阿弖流為を舞台と同じ市川染五郎が、坂上田村麻呂を中村勘九郎が、そして二人の間に立つ二人のヒロイン、烏帽子と鈴鹿を中村七之助が一人二役で演じております。

 さて、「歌舞伎NEXT」と銘打たれた本作、脚本は中島かずき、演出はいのうえかずのりと、オリジナルと同じ。
 ロックの生曲が流れる劇中も、激しい殺陣も(効果音も)、新感線でお馴染みのものなのですが……しかしそれでもきちんと歌舞伎になっている、と感じられるのが面白い。

 もちろん、花道を使っての見得など――新感線に染五郎が出演した際に見得切りはありましたが、サービス的要素に留まっていたのに対し――歌舞伎ならではの演出が要所要所で活きているのは言うまでもありません。
 しかしそれ以上に、大音量にも派手な殺陣にも食われることなく、歌舞伎ならではの(特に静と動の)演出、見せ方というものが、その外側できっちり息づいているという印象を受けました。
(その一方で、歌舞伎では独特のゆったりとした殺陣を演じている役者たちが、新感線流の激しい殺陣をきっちりとモノにしているのにも驚かされました)

 さて、いささか前後しましたが、本作は阿弖流為と坂上田村麻呂の、不思議な友情と共感で結ばれた男同士の対決を中心にして描かれる物語であります。そして、その中で特に大きく印象が変わったのが田村麻呂。
 というのも、舞台の方ではどちらかといえば完成した人格で、悩み、荒れる阿弖流為を受け止め、鎮める役を担っていた田村麻呂ですが、こちらでは、完全に阿弖流為以上に「若い」人物として描かれるのです。

 どこまでも明るく熱く、この世に正しき理があることを信じる――そんな若者が、それ故に現実の壁にぶつかり、悩むというのは、新感線では定番のキャラクター造形の一つという印象ですが、それを勘九郎が好演。
 阿弖流為の側が、冷静かつ現実的に物事を見つめ、それ故に苦しむという、これも新感線的なキャラクターであるのと好対照で、舞台は基本的に阿弖流為ひとりが主役であったのに対し、本作は阿弖流為と田村麻呂、二人が主役という印象が強くあります。

 また本作では、ヒロインたちの存在を、舞台とは大きく変えて描き出します。阿弖流為に付き従う烏帽子、田村麻呂を支える鈴鹿の二人は変わらぬものの、その在り方は大きく異なり(鈴鹿は舞台と異なり、後半からの登場)、そしてその位置づけがよりくっきりと鮮やかに見える形となっているのです。

 そしてそれに大きく貢献しているのが、烏帽子と鈴鹿を一人二役で演じた七之助。
 動の烏帽子と静の鈴鹿、同じ姿を持ちつつも異なるパーソナリティを持つ二人を巧みに演じ分けて見せたのには唸らされましたが、何よりも烏帽子の××の際に見せた、怒り・悔恨・哀しみ・愛情といった様々な想いが入り乱れた表情が実に素晴らしく、大いに泣かされたところであります。


 しかし――個人的には本作を観劇する前に、何故いま阿弖流為? という疑問がありました。舞台の公開年は阿弖流為没後千二百年に当たっていましたが、今年はそういった由縁があるわけでもなさそうなのに……と。

 が、実際に観劇した今では、本作は今この時に演じられる意味があった――そう強く感じさせられました。異なる民族同士の争い、不寛容を描く本作の基本ラインはそのまま、その表現は随所で洗練され、先鋭化され、まさに現代性を得ていたのですから。

 その一つが、阿弖流為を裏切る蝦夷の男・蛮甲の描写でありましょう。舞台では小狡く立ち回り、大和側で地位を得た彼は、それとは全く異なる経緯を経て、どちらの民族でもない男としてさすらい、ある役目を果たすのであります。

 そしてまた、舞台にはなかった、阿弖流為の都への連行を記した立て札を前にした庶民たちの会話が印象に残ります。
 この場面自体は、歌舞伎ではよくある、舞台装置を変えている間の時間つなぎではありますが、その内容が、異民族を人として扱おうという者に対する同調圧力とも言うべきものであり……ここでこうした場面を入れ込んでくる作り手の姿勢に、唸らされます。

 もちろん、いまこの時に本作が上演されたのは、主に役者や劇場のスケジュールという理由によるものでありましょう。
 しかしそれを承知していてもなお、物語は時にあたかも運命的に、世に出るべき時に出るものがあるのだと――そう感じさせられた次第であります。


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