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2015.07.18

『決戦! 大坂城』(その二) 「らしさ」横溢の名品たち

 競作アンソロジー『決戦! 大坂城』の紹介その二であります。全七編が収録された本書、今回は富樫倫太郎、乾緑郎、天野純希の作品――いずれも作者らしさの横溢する名品をご紹介いたしましょう。

『十万両を食う』(富樫倫太郎)
 職人芸的に様々な(サブ)ジャンルで活躍する作者が最近力を入れているのは戦国ものという印象がありますが、さらにそこに作者が得意とする経済ものの要素を加えた、作者ならではの作品です。

 籠城戦に備える大坂での一儲けを夢見て、古米を大量に買い込んだ近江屋伊三郎。しかし冬の陣があっさり終わり、大坂城が厳重に封鎖されたことで、彼の手元に残ったのは古米と借金の山でありました。
 知人の商人の仲介で、抜け穴から密かに古米を大坂城に運び込んで売りさばくという賭けに出た伊三郎ですが、決戦が近づく中、意外な依頼をされることに……

 本書の中では唯一主人公が武士(の血縁に連なる者)ではない本作。それどころか合戦も遠景でしか登場しないのですが、しかしここで繰り広げられるのもまた、紛れもない戦の現実でありましょう。
 そしてその戦いが意外な形であの有名な巷説と重なり合う終盤もしびれるのですが……何よりもいいのはやはり結末でありましょう。

 武士に武士道があるならば、商人にも商人道がある。そんな小さな意地と心意気を謳い上げる結末は、実に爽快であります。


『五霊戦鬼』(乾緑郎)
 公式サイトに掲載された執筆陣のサイン寄せ書きで、「甦れ!! 時代伝奇!」と何とも心強い言葉を記している作者による本作は、まさにそれ以外の何物でもないユニークな作品であります。

 若き日の放浪の果て、今は徳川の陣に加わっている水野勝成。しかし彼を、同じ徳川方であるはずの伊達政宗の軍が狙います。
 その策を献じたのは政宗の客僧たる法雲。彼は、勝成がかつて小西行長から授かった南蛮の秘薬の存在を、政宗に吹き込んでいたのであります。果たして法雲の正体とは……

 その破天荒な生涯から、最近脚光が当たりつつある勝成ですが、彼は若き日に水野家を追われ、長きに渡り放浪生活を送っていた人物。本作はその謎多き放浪生活と大坂の陣を結ぶ、奇怪な因縁の物語であります。

 いやはや、時代ものを書かせればいずれも奇怪なアイディアを導入して驚かせてくれる作者ですが、本作のアイディアもまた奇想天外、武蔵まで飛び出した物語の結末は、何やら壮大なホラ話を読まされた感すらあります。
 大坂の陣との関連があまり強くないように感じられるのもまた事実ではありますが……


『忠直の檻』(天野純希)
 家康の孫・松平忠直を主人公とした本作は、武将たちの活躍を描きつつも、どこか苦い人間味が漂う戦国ものを数多く発表している作者らしい一編であります。

 外では祖父に疎まれ、内では権高な正室や叩き上げの重臣たちに振り回される日々を送る忠直。名を挙げる好機として参戦した冬の陣においても大敗を喫した彼が唯一心慰められるのは、感情を露わにしない側室のお蘭の傍らに居るときでありました。
 そして夏の陣が始まらんとする時、初めてお蘭に手柄を立てろと言われた忠直は……

 夏の陣では配下が真田幸村の首を挙げ、大坂城に真っ先に突入するなどの戦果を挙げた一方で、その後、乱行により隠居・配流され、菊池寛の『忠直卿行状記』でも暴君として描かれた忠直。
 かように後世のイメージは芳しくない忠直を、本作はいかにも作者らしい視点で捉え直し、偉大なる祖父をはじめとする周囲の人々の間で、言いたいことも言えず、したいこともできぬ、そんな鬱屈した青年として描き出します。

 そんな忠直の生を象徴する言葉が「檻」――決して自分の意思で入ったわけではない檻に囚われ、理不尽とも言える苦しみを受ける彼の姿は、現代に生きる我々にとっても他人事とは思えぬものがあり――彼がようやくその檻から解放された時の苦く切なく、しかしどこかほっとさせられる感覚に、どこか共感してしまうのであります


『決戦! 大坂城』(葉室麟ほか 講談社) Amazon
決戦!大坂城


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