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2015.07.04

高井忍『柳生十兵衛秘剣考 水月之抄』(その二) 二重の意味の剣豪ミステリ

 若き日の柳生十兵衛と男装の女武芸者・毛利玄達――腐れ縁の二人が、剣豪・秘剣にまつわる数々の謎に挑むシリーズ第二弾『柳生十兵衛秘剣考 水月之抄』の紹介その二であります。残るエピソードは一つ、そこに登場するのは正真正銘の魔剣であります。

 そして最後のエピソードは『二階堂流“心の一方”』。前作に登場した深甚流“水鏡”に並ぶ、文字通りの魔剣――細川家に仕えた松山主水が操ったという、相手に触れることなく吹き飛ばし、動きを封じるという秘剣であります。

 その秘剣を目の当たりにした玄達は、かねてより存じ寄りの千姫の依頼で、心の一方の秘密が存在するという鎌倉に向かうこととなります。
 そこで十兵衛と出会った玄達は、鎌倉で多数の信者を抱える女祈祷師の存在を知るのですが、彼女と心の一方には意外な結びつきが……

 と、剣豪ミステリというよりは伝奇ミステリと言いたくなるような意外な展開を見せる本作。心の一方とあの○○○を組み合わせるのは、私の知る限りでは本作が初めてではないかと思いますが、そのとてつもないアイディアが、しかし丹念に史実を積み重ねていくことによって、説得力あるものとして提示されるのはさすがでありましょう。

 しかし、本作で真に感心させられるのは、玄達が解き明かす松山主水の「正体」であります。
 確かにその時代に存在したにもかかわらず、全くいないものとして扱われてきた人々。それは、後世の我々だからこそ陥る一種の錯覚ではありますが、しかし当時の社会構造によるものであったことは間違いありません。

 そんな人々の存在に辿り着くのが玄達であり、そして舞台となった場所も含めて、本作の周到さに舌を巻いた次第です。


 というわけではなはだ駆け足でありますが紹介させていただいた本作の全三話。
 いずれの作品も、ミステリでは定番のトリックを巧みに翻案して剣豪ものの世界に当てはめてみせるという、まさしく剣豪ミステリの快作ですが、しかしそれにとどまらないものを本作は持っていると感じます。

 ミステリの「隠された謎を解く」という構造。それは同時に、その謎に関わった人々の心の中に隠された真実を見つけ出すという行為に重なるものであります。
 そして本作で浮かび上がる「真実」の多くは、江戸時代初期という舞台特有の、剣豪という人々特有のものなのであります。

 剣豪にまつわる謎を解くミステリであるだけでなく、剣豪の心の中の真実を描き出すミステリ――本作は、二重の意味で剣豪ミステリとも言うべき見事な作品集であります。
(その意味では、ミステリファン以上に剣豪ファン、時代小説ファンにおすすめできる作品であるかもしれません)

 第三弾を今から期待している次第です。


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