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2015.07.15

劇団☆新感線『アテルイ』 民族という壁を超えて

 大和の民が北の蝦夷の国に攻め入っていた時代。賊を追っていた武人・坂上田村麻呂は、成り行きで「北の狼」を名乗る男と共闘する。その男こそは蝦夷の長の子・阿弖流為だった。ある理由から故郷を追われながらも、故郷を救うために北に向かう阿弖流為。そして田村麻呂も、征夷大将軍として北へ――

 先日、新橋演舞場で上演された歌舞伎『阿弖流為』を観劇してきました。実は本作は、13年前にところも同じ新橋演舞場で上演された劇団☆新感線の舞台『アテルイ』の再演とも言うべきもの。それゆえ、『阿弖流為』の前に、『アテルイ』をまずご紹介しましょう。

 阿弖流為と言えば、平安初期に乱を起こし蝦夷の長であり、伝説の悪路王とも同一視された謎多き人物。
 そして坂上田村麻呂は、その悪路王を討ち、蝦夷を平定したと言われる武人であり、中世説話の世界では、立烏帽子こと鬼女・鈴鹿を妻としていたなど、やはり不思議な人物であります。

 本作は、新感線――というより脚本家の中島かずきの作品の多くがそうであるように、これら史実・伝説を織り交ぜて作り出された物語。阿弖流為には、彼と運命を共にする女性・烏帽子が、田村麻呂には恋人の鈴鹿が、二組の男女を中心に、物語は展開していきます。


 かつて禁忌の山でアラハバキ神の遣いを殺し、その呪いで蝦夷を追放された阿弖流為。流れ流れた末に、都でそのきっかけとなった女――今は都を騒がす盗賊・立烏帽子党の頭目・烏帽子と再会した彼は、田村麻呂と出会い、互いの素性も知らぬまま、意気投合することになります。

 しかし北に帰った阿弖流為は、生き残りの蝦夷をまとめ、この国を統一せんとする帝の軍に抗戦し――そして坂上田村麻呂は、征夷大将軍としてその討伐を命じられ、かくて二人は戦場で合い見えることとなります。
 しかし二人の武人の戦の陰には、もう一つの戦い――神と神の戦いが潜み、そしてそれが二人の運命を狂わせていくことに……


 本作を含め、多くの作品で「まつろわぬ者」たちの戦いを描いてきた新感線、中島かずき。反逆者、アウトロー、異教徒、道々の者……様々なまつろわぬ者たちが描かれた中でも、本作が何よりも強い輝きを放つのは、描かれるのが異民族――民族と民族の戦いであるためでしょう。

 同じ国に住まいながらも、文化も体制も全く異なる者として争う蝦夷と大和。その戦いについては史実にも残るところですが、本作は正史に、歴史書に残らぬもの――その争いに巻き込まれた人々の、いや人ならざるものも含めた想いを描き出します。

 その最たるものが、もちろん阿弖流為と田村麻呂の間の魂の交流とも言うべきものであることは言うまでもありません。
 互いに武人として、男として認め合い、友情とも言うべきものを抱きつつも、しかしそれぞれの生まれが、立場がそれを許さず、激しく剣を交えることとなる――

 ある意味エンターテイメントでは普遍的なシチュエーションではありますが、しかしそれに独特の迫力を与えるのは、二人の戦いが正史に残された――少なくとも正史に由来する――ものであり、そして何よりもその淵源が「民族」という、その違いが見えるようで見えず、あると思えばあるものである点であることは間違いありません。

 さらに、見えるようで見えず、あると思えばある存在とは、本作においてもう一つ別の言葉で描かれるのですが……それはここでは伏せておきましょう。
 ただ一つ言えることは、本作が(ただなんとなく面白そうだから、というわけでなく)相当の覚悟を持ってこの題材を扱っているということであり――そしてそれ故に、その壁を超えようとする人々の姿が、感動的に映るのであります。


 さすがに13年前ということもあって、舞台装置は今の目で見ると寂しいものがありますし(というよりも今の新感線の豪華さに改めて驚きます)、二人(三人?)のヒロインの設定がいささかわかりにくい点は否めません。
 阿弖流為と並び立つ田村麻呂が、かなり完成された人格として描かれていることで、(阿弖流為の受け止め役として)やや便利に扱われている感もあります。

 それでもなお、いま観ても本作が面白く、考えさせられるのは、本作で描かれているものが、今なお全く古びていないゆえ――それに尽きましょう。

 そしてその物語は、新たな器を与えられてさらに先鋭化していくのですが――それはまた別途語ることといたしましょう。

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