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2015.07.13

小松エメル『一鬼夜行 雨夜の月』(その一) 三兄弟の挑んだ試練

 昨年、第一部が完結した『一鬼夜行』。その第一部ラストでは、小春の兄と弟が登場、物語で重要な役割を果たしましたが、本作の中心となるのはこの三人の過去……そう、小春が鬼はおろか、猫股になる前の物語であり、そして彼にとっては忘れられぬ人、逸馬との出会いと別れの物語でもあるのです。

 前作『鬼が笑う』で、ついに宿敵とも言うべき大妖怪・猫股の長者との決戦に臨むこととなった小春。しかし長者は、かつて小春が対面した相手ではなく、既に代替わりしていたのであります――それも、彼の弟・義光に。
 そしてその兄弟対決に立ち会う形となったのは、彼らの長兄・椿。ある出来事がきっかけで世間から姿を隠していた彼は、小春が猫股となるのに大きな役割を果たした妖物。

 かくて始まった兄弟骨肉の争いの行方は――ここでは述べませんが、やはり前作を読んだ際に、椿と義光の存在が大いに印象に残ったことは言うまでもありません。
 物語が風雲急を告げていたこともあり、また構成の巧みさもあって、さまで気にはなりませんでしたが、彼らはその時がほとんど初登場。最小限の情報は語られたものの、彼らはどのような存在なのか、そして何よりも、彼らの過去に何があったのか……それは伏せられたままだったのですから。

 そう、本作はそんな彼らの物語であり――前作が、喜蔵サイドから描かれた人間視点の物語であったとすれば、本作は、妖怪視点で語られる物語なのであります。


 生まれてからしばらくを共に過ごし、それぞれ経立(本作では妖怪の前段階の、いわゆる「変化」と言えばいいでしょうか)となった小春たち三兄弟。
 妖怪になる前から強大な力を持ちつつも、弟二人を陰から操つる陰湿さ・冷酷さを持つ黒猫の椿、小春と似たような外見を持ちつつも、小春に対する激しいコンプレックスと強さへの渇望を抱く義光――

 やがてそれぞれ猫股を……いやその長たる猫股の長者を目指すようになった三人は、それぞれの道で、猫股になるための試練に挑みます。
 それは人間と情を通わせ、その上で相手の首を落とし、喰らうこと――その試練に、彼ら三人がいかに挑み、いかに達成したか(達成できなかったか)が、本作の中心を締めるのですが……

 既にシリーズ第1弾で語られているにもかかわらず、改めてみればあまりにも無惨な猫股の試練。その試練を描くことは、しかし同時に、彼ら三人が、いかに人間と出会い、触れあい、別れてきたかを描くことにほかなりません。


 さて、彼らが出会った人間とは……というところで、長くなりますので次回に続きます。


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(P[こ]3-8)一鬼夜行 雨夜の月 (ポプラ文庫ピュアフル)


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 『一鬼夜行 鬼が笑う』の解説を担当しました

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