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2015.07.10

松田朱夏『ジロキチ 新説鼠伝』 痛快な怪盗伝の先の真実

 時は文政、江戸の町を何かと騒がす盗賊がいた。人呼んで鼠小僧次郎吉――相棒のからくり儀衛門とともに、次から次へと不可能なミッションに挑む次郎吉、なりゆきから義賊と呼ばれるようになったが、何よりも求めるものはスリル。特務同心・間宮林蔵に追われながらも、今日も次郎吉の冒険が始まる……

 毎回、意外かつ豪華な執筆陣でこちらを驚かせかつ楽しませてくれる白泉社招き猫文庫ですが、今月の新刊もそれは同様。
 『危機之介御免』『CLOCKWORK』『さんばか』といったユニークな時代漫画の原作者としても活躍する富沢義彦が、ノベライズを得意とする松田朱夏と組んでの『ジロキチ 新説鼠伝』であります。

 ジロキチ――鼠小僧次郎吉といえば、言うまでもなく天下の大泥棒。化政時代に活躍(?)したこの人物、義賊という巷説は眉唾ながら、本朝の歴史で一、二を争う盗賊界の有名人であることは間違いないでしょう。
 当然、フィクションの世界でもこれまで枚挙に暇のないほど取り上げられてきた人物でありますが、さて本作はその次郎吉をどう料理してみせたか――

 と、本作の次郎吉は、ひょろりと長い手足にどこか猿っぽい印象の男、金と女に目のない悪党ながら、どこかロマンチストでお人好しの人物。
 そして彼とコンビを組む天才発明家のからくり儀衛門は、目を隠したボサボサの前髪がトレードマークのクールな男、次郎吉とは相棒兼喧嘩友達といった立ち位置であります。

 そして時に仕事を持ち込み、時に罠に填め……と彼ら二人を翻弄する謎の美女に、次郎吉を追いかけることに生き甲斐を見出しているような堅物役人――

 と、正直に申し上げれば、どこかで見たキャラクター配置なのですが――
 それもそのはず、原作者のブログを見れば、本作のコンセプトは時代劇版『ルパン三世』。ルパン三世で鼠といえばネズミ一族……というのはさておき、ありそうでなかったコロンブスの卵的コンセプトでありましょう。
(ちなみに原作者は、セガサターンのデータベースソフト『ルパン三世クロニクル』の企画構成を担当している、いわばルパン三世のプロ(?)の一人であります)

 しかし、本作が名作のシチュエーションのみを借りた作品かといえば、もちろんそれははっきりと否、です。
 これまでの原作者の時代漫画同様、本作は、登場人物のチョイスや設定はあくまでも史実を踏まえ、それでいてありそうでなかったひねりを入れてくる……そんな時代ものとしての楽しさをきっちりと抑えた作品なのです。

 次郎吉・儀衛門コンビが、間宮林蔵を向こうに回して悪徳役人のからくり蔵に挑む第一話、小田原藩の下屋敷に忍び込んだ次郎吉が、彼を待ち受ける思わぬ仕掛けに悪戦苦闘の第二話、そして自ら牢屋敷に入ったという戯作者を連れ出すため、自分も牢に入った次郎吉の脱出劇の第三話――

 物語そのもののバラエティに富んだ趣向もさることながら、ゲストキャラの設定や背景事情などは、その当時のことを知れば知るほどニヤリとさせられるものばかり。
(このゲストキャラ、いかなる理由にか、名前はもじってあるものの、わかる人にはわかる描写なのが楽しい)

 漫画と小説と――媒体は異なれど、そのスラップスティック気味なアクションも含め、原作者ならではの味わいがはっきりと感じられるコミカルかつ痛快な時代活劇なのであります。


 しかし……私が惹かれたのは、こうした点のみではありません。
 私が本作に最も魅力を感じるのは、ある意味荒唐無稽な物語を展開させつつも、その中で現実に通じる――そして現実を突き破る虚構を描き、そしてそこに逆説的に一片の真実を生み出させようという、作者の戯作者としての心意気であります。

 先に述べたように、鼠小僧次郎吉が義賊であったというのは、あまりに美しく、現実としては疑わしい話であります。
 しかし、それでも、もしかしたら――そこには美しい真実があるかもしれない。初めは虚構だったとしても、いつかは真実となるかもしれない……そんな祈りにも似た想いが、本作にはあります。


 と、面映ゆいことを書いてしまいましたが、本作の基本はあくまでも痛快な冒険活劇。第三話にはおそらくあの人物(をモデルにしたキャラ)が意外な役回りで登場、いくらでもこの先、物語が広がっていきそうであります。
 新たな命を吹き込まれた次郎吉の真実の物語がこの先も語り継がれることに期待します。


『ジロキチ 新説鼠伝』(松田朱夏&富沢義彦 白泉社招き猫文庫) Amazon
ジロキチ 新説鼠伝 (招き猫文庫 と 2-1)

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