葉明軒『仙術士李白』第1巻 仙術を通して描く大唐国
このブログでは、日本を舞台にした作品のみならず、中国ものもしばしば取り上げてきましたが、今回紹介する作品は、タイトルからして大いに気になる作品。あの唐代の大詩人・李白が、実は仙術を操る少年だったという、実にユニークなアイディアに基づく中国ファンタジーであります。
幼い頃から美女道士・焦煉師の下で修行を重ね、15歳の時には既に一人前の仙術士となっていた李白。彼の夢は、国中の秀才が集う翰林院に入り、国家仙術士なることでありました。
しかし庶民出身の彼にとっては、科挙を受けることも夢のまた夢。国師たる司馬承禎の言葉に従い、制挙(皇帝の詔により、身分を問わず才ある人間を募り、皇帝自らが審査する試験)を目指すこととした李白は、諸国を巡って見聞を広めることとなります。
友人の呉指南と旅する中、様々な事件に出会う李白。しかしその間にも、彼と同い年の少年・王維が科挙を突破し、進士となっていたのでした……
本作の主人公たる李白について、ここでくだくだしく述べることはいたしませんが、本作を読むに当たり、頭の片隅に置いておくと面白いのは、彼と仙術の関わりでありましょう。
本作では彼の士として登場する、当時としては有名人だった焦煉師(焦錬師)に入門したかった、という彼は、やはり本作に登場する道士・東巖子とともに山に籠もり、仙術修行の日々を送ったと言われています。
しかも、これまた本作に登場する司馬承禎をして、仙骨(仙人の素質がある者が生まれつき持つというもの)があると言わしめたというのですから、これはまさしく折り紙付き。
彼の異名「詩仙」は、こうしたところからも由来しているのかもしれません。
そして本作は、その李白を本当に仙術士にしてしまったわけですが――それも本作独自の世界観があったこそ。
そう、本作においては、仙術が至上の能力であり――そして科挙を合格した官吏・政治家の多くは、何らかの能力を持つ術者なのです。
当然、本作で彼のライバルとなるであろう王維もそんな術者の一人であります。
史実では、詩のみならず画・書と様々な芸術に優れ、そして政治家としても活躍した王維ですが、その「詩仏」の異名にふさわしく、彼が用いるのは仏教系の術というのが実に面白いのです。
そんな本作の世界観は、もちろんフィクションではありましょうが、しかし実際に読んでみると、例えば本作で描かれる翰林院の姿など、現実の唐という国――なかんずくその官界・政界の、一種のパロディ、カリカチュアと言うべきものとして描かれているやに感じられます。
現代日本の我々にとっては、どうしても縁遠い唐代の政治の世界。それを漫画としてストレートに描き、我々に興味を持たせるのは、なかなかに難しいと思いますが――なるほど、こうした手法であれば、無理なく引き込まれてしまいます。
もちろんそれだけでなく、仙術アクションものとしても、本作が十分に魅力的なことは言うまでもありませんが……
上で述べたように、本作の登場人物のほとんどは、実在の(記録等に残っている)人物。それをこのユニークで魅力的な世界に放り込むことにより、本作は史実を踏まえつつも、全く新しい物語を生み出そうとしていると感じます。
この巻のラストには、詩仙・詩仏とくればもう一人……のあの人物が、意外な形で登場。
おそらくは彼らの宿敵となるであろう李林甫(この時代の悪徳政治家の代表とも言うべき人物)も不気味な存在感を発揮しており、この先、李白たちの冒険がいかなるかたちで描かれることになるのか――大いに楽しみにしているところなのです。
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