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2015.08.03

玉井雪雄『ケダマメ』第3巻 感情と理性の激突、そして新たなる時代へ

 鎌倉時代を舞台に、何者かに狙われる少女・まゆを守るために命を賭ける異形の男・虚仮丸ことケダマメの死闘を描く本作もいよいよ佳境。前の巻で判明したあまりに衝撃的なケダマメとまゆの秘密を踏まえ、物語は一つの結末を迎えることになります(以降、大きなネタバレがありますのでご注意下さい)

 何処からか現れ、傀儡の少女・まゆを守るため、時にその片腕を、蟹の鋏や蛸の触手に変えるという奇怪な能力を発揮して戦う虚仮丸。彼らを狙う相手もまた、巨大な亀と人間の混淆したような怪物でありました。
 激しい戦いの中、一旦、己が、そしてカメ男がやってきた「明日の国」に帰還した虚仮丸。そこは未来世界――

 そこは、如何なる理由か人間の遺伝子に異常が生じ、人と他の生物の遺伝子の混淆が生じたその時代。人は、純粋な人間の遺伝子――オリジン株を求めて過去にゲノムハンターを送り、その遺伝子を持ち帰ろうとしていたのでした。

 そう、まゆこそがこの時代のオリジン株であり、虚仮丸=ケダマメとカメ男はゲノムハンターだったのですが……本来であればゲノムハンターはまゆを食い殺すことで遺伝子を持ち帰るのに対し、ケダマメはまゆを生きのびさせることで遺伝子を繋ごうとしていたのであります。


 未来を守るために過去に干渉する――それは、時間SFであれば定番中の定番。そしてその干渉の是非が問われることもまた定番ではありますが、本作における干渉の程度は、極めて小さい、と言えるかもしれません。
 あえて非情極まりないことを言えば、その干渉は人間一人の命で済むのですから……

 人という種が危機に瀕している時に、たった一人の人間の命がどれだけの意味を持つか――理性的に考えれば、それは問うまでもないことかもしれません。しかし……
 しかし、それを無条件に良しとするのに抵抗を感じるのもまた、人という種ではありますまいか。

 その意味では、まゆを挟んでのケダマメとカメ男の戦いは、それぞれ人の異なる側面の……感情と理性の激突と呼べるかもしれません。
 しかしその感情は、カメ男が指摘するようなある種の万能感に拠るものではなく――むしろそれとは対極にある、一種根源的な想いと言えるでしょう。

 そして私は、そのケダマメの想いが一種のエゴであると――もちろんそれも種の保存の原動力ではあるのですが――理解しつつも、しかしそちらの方がより人間らしく、美しいと感じるのであります。
(その想いが決して成就してはならないのがまた泣かせるではありませんか)


 そしてあるとんでもなくすっとぼけたようなオチ(と言っても許されるでしょう)をつけて物語は一旦の終幕を迎えるのですが……しかし、オリジン株を巡る戦いは、時が続く限り終わることはないようです。

 次なる物語、次なるケダマメの戦いの舞台は、なんと昭和6年の、それも玉ノ井の赤線地帯。
 そこで暮らす身よりのない少女・まゆみこそがこの時代の……ということになりますが、しかしその前に現れるのはケダマメ一人ではありません。

 そこに現れるのは、「以前」のケダマメを知る男。まゆみを挟んでの彼との戦いが何をもたらすのか……これまで以上に先は読めません。

 残念ながら連載の方はもうじき完結とのことで、次の巻がラストになるかと思いますが……そこでケダマメが何を想い、何を選ぶのか、最後まで見届けたいと思います。


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