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2015.08.15

平谷美樹『水滸伝 3 白虎山の攻防』 混沌の中の総力戦!

 隔月で刊行されてきた平谷美樹版『水滸伝』も早くも第3巻。この巻で描かれるのは、サブタイトルのとおり「白虎山の攻防」――早くも山東に覇を唱えつつある梁山泊の橋頭堡ともいうべき山東四山の一つ・白虎山を舞台に、豪傑たちと宿敵・耶律猝炫との激突が描かれることとなります。

 呉用により用意周到に進められてきた数々の策により、一気にその勢力を高めた梁山泊。豪傑たちも次々と集い、いまや梁山泊のみならず、二竜山・桃花山・清風山そして白虎山の山東四山に、梁山泊の出城ともいうべき砦が作られている状況であります。
 もちろん、それを官軍が黙って見逃すはずもありません。かつて王進を討ち、史進と死闘の末に片目を奪われた北狄軍将軍・耶律猝炫――梁山泊の宿敵とも言える男が、討伐軍を率いて接近していたのであります。

 彼の標的は、四山のうち一つ外れた地に位置する白虎山。そこに拠るは孔明・孔亮の兄弟に武松、そして呉用の策により役人の地位を追われ、お尋ね者として放浪する羽目になった宋江が……
 しかも宋江の弟・宋清を人質に取って迫る官軍。この窮地に三山の豪傑たち、そして梁山泊からは林冲、魯智深らが駆けつけたものの、梁山泊本隊は別の作戦を遂行中であり、官軍との戦力差は絶対的であります。

 かくてこの巻をほとんど丸々使って描かれるのは、白虎山を舞台とした豪傑たちと官軍の総力戦。武と武、智と智の一歩も引かぬ攻防戦の最中に、朱仝・雷童・秦明・黄信ら新たな豪傑も登場し、さらに童貫・高キュウまで……と、早くもクライマックスであります。

 その中で注目すべきは、やはり単純に敵味方・善悪で切り分けることのできない混沌とした人間関係、勢力分布でありましょう。
 もちろん梁山泊と官軍という大きなラインはあるものの、どちらの勢力も一枚岩とは言えない状態。童貫と高キュウが勢力争いを繰り広げる官軍はある意味当然かもしれませんが、その両者の間に立つ耶律猝炫は、さらに複雑な動きを見せることとなります。

 そもそも耶律猝炫はその姓が示すように北方の契丹の血を引く男。というより、あの耶律突欲の子孫……といえば、平谷美樹ファンはおお、と思われることでしょう。故国は既になく、宋においても使い捨ての捨て駒として扱われる彼の存在は、ある意味本作最大の台風の目であります。

 一方、梁山泊側も、宋江が呉用の仕打ちを根に持ち、尽くぶつかり合うのをはじめ(この辺り、原典の二人の関係を考えると非常に楽しいのですが)、呉用と史進をはじめとする他の豪傑たちの間が必ずしもうまくいっているとは言えない状況。
 特に本作の呉用は、能力的には素晴らしいのですが、百八つの魔星リストの自作自演に代表されるように、どこか得体の知れない、信用のできない男であります。

 とはいえ、豪傑たちが官軍に勝つためには呉用の策が必要であり、そして呉用も自らの目的のためには豪傑たちの力が必要……と、危ういバランスで成り立った人間関係も、またユニークな点でありましょう。


 そして本作の後半では、その一筋縄ではいかない平谷水滸伝を象徴するかのような関係にある二人が、再び再会することとなります。
それは史進と高キュウ――方や梁山泊に拠る豪傑の筆頭、方や朝廷を私する奸臣。本来であれば宿敵同士ですが、しかしシリーズの第1巻において二人は一度出会い、近しく言葉を交わしているのであります。

 己の感情・感覚の赴くまま、奸臣を倒し世直しをせんとする史進。己の心情を韜晦し、奸臣を装って世直しをせんとする高キュウ。全く対極にありつつも、しかし世直しという点で共通し、不思議に惹かれあう二人の関係は、世直し――言い換えれば国の在り方において様々な人々の想いが交錯する、この平谷水滸伝ならではのものでありましょう。

 もっとも、史進はともかく、高キュウの――さらに言えば呉用の世直しの先にあるものが、今一つ見えないのがすっきりしないところでありますが……


 本シリーズは、この第3巻において第一部完とのこと。なるほど、クライマックスのほとんど総力戦のような盛り上がりはそれ故か、と納得いたしましたが、もちろん物語はまだまだその端緒についたばかりであります。
(原典で言えば、清風山の攻防戦が終わった辺りと思えば良いでしょう)

 果たしてこの続きを読むことができるのがいつになるのか、それはわかりませんが、反骨の奇想の作家である作者によってまさに書かれるべき物語であるだけに――続巻を心して待ちたいと思います。


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