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2015.08.18

縄田一男編『忍者だもの』(その二) 人を超え、人を捨てたところに立つ者たち

 新潮文庫のオリジナル忍者ものアンソロジー『忍者だもの』の紹介の後編であります。五人の大作家による忍者ものを集めた本書、異色作が続きますが、残る二作品もなかなかにユニークな作品であります。


『赤絵獅子』(平岩弓枝)
 あまり忍者ものという印象のない作者による本作、読んでみれば、見事に作者の作品でありつつも、変格の忍者ものであります。

 本作の舞台となるのは鍋島藩の赤絵(陶磁器の上絵付け)職人の世界。赤絵屋小柳家の跡取り・万作は、父から家を継ぎ、愛妻との間には子供も生まれ、幸せの絶頂だったのですが――その彼の前に現れたのは、自分の父を名乗る男でした。

 鍋島藩の重要な産業として、門外不出の国焼の赤絵。それを漏らした者、盗もうとした者は命を奪われるというその秘伝を盗むため、同じく赤絵を生産する加賀藩から「父」は潜入してきたのであります。
 いわば自らが「草」であったことを知らされた万作の選択は……

 なるほど、職人もの、人情ものであるとともに、確かに本作は忍者もの。忍者といえばどうしても忍法忍術がまず浮かんでしまいますが、むしろその任務の大半は、本作のようなじっと静かに耐えるものであったことは想像に難くありません。
 そして忍耐の果てに待つものは……あまりに切ない物語の先に浮かび上がる幻の赤が鮮烈に心に浮かびます。


『忍者服部半蔵』(山田風太郎)
 そしてラストはやはりこのお方の忍法帖――ではありますが、無名の忍者の活躍を大半とする中で、本作は珍しく、メジャーな忍者の名をタイトルに冠する作品です。

 初代半蔵が亡くなり、二代目半蔵が数々の不始末の末に姿を消し、その弟の三代目服部半蔵正重の時代。権勢隠れ無き大久保長安の娘を娶った彼は、その厳格・非情極まりない態度で、伊賀のエリートたちを統率していたのですが……しかし唯一の悩みは、弟の京八郎でありました。

 早々に忍法修行から脱落し、日頃から軟弱極まりない暮らしを送るだけならまだしも、忍法を、忍者に皮肉極まりない視線を向ける京八郎。
 ついに堪忍袋の緒が切れた三代目半蔵は、京八郎に自分との忍法勝負を命じるのですが……

 忍法帖といえば人間の限界を超えたかのような超人的な忍法ですが、本作においても墨検断、百度詣り、小夜砧、そして網代木と、雅やかで――それだけにどこか不気味なものを感じる忍法が次々と登場いたします。
 しかしむしろ本作が中心に据えるのは対照的な性格の服部家の兄弟――なかんずく、弟の京八郎であります。

 古怪な精神性を受け継ぐ兄に対して、京八郎はいわゆる現代っ子。伊賀の者たちの忍法修行に対する合理的視点からのツッコミの身も蓋もなさには、『海鳴り忍法帖』での近代兵器による忍者大虐殺に通じるものがある……というのはさておき、そのあまりに異なる思想は、痛快ですらあります。

 しかし、終盤において、物語は恐るべき転回を見せます。三代目半蔵を戦慄せしめたある変貌。それを招いたもの、三代目半蔵が「憑いた」と評したものなんであったか――
 それは本作がタイトルに冠する「服部半蔵」という名であったのではありますまいか。


 というわけで全5編、アンソロジーとして見れば決して多い作品数ではありませんが、これまで紹介してきたとおり、いずれも個性的な、そして大ベテランならではの作品揃い。

 今どきさすがに相田みつをはいかがなものか……とタイトルを見た時には思いましたが、人間が当然感じる苦しみや悲しみを超克した、あるいは押し殺したところに立たざるを得ない者が忍者であるとすれば、あるいはさまで違和感はないのではないか――

 そんなやくたいもないことすら考えさせられてしまうのが、収録作の味わい深さによることは、間違いありません。


『忍者だもの』(縄田一男編 新潮文庫) Amazon4
忍者だもの: 忍法小説五番勝負 (新潮文庫)

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