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2015.08.25

瀬川貴次『ばけもの好む中将 四 踊る大菩薩寺院』(その一) 大驀進する平安コメディ

 コバルト文庫の『鬼舞』シリーズも絶好調の作者によるもう一つの平安もの『ばけもの好む中将』も、順調に巻を重ねて第四弾。怪異を求めてやまない変人中将・宣能と、彼に巻き込まれる愛すべき一般人・宗孝の怪異探求が引き起こす騒動は、今日も続きます。それも今回は大変なスケールの騒動が……

 父は今をときめく右大臣、叔母は女御で東宮の母、もちろん容姿は端麗と、絵に描いた貴公子のような宣能。しかし美しい姫君との出会いなどではなく、世にも奇怪な怪異との出会いを夢見る彼を、世の人は「ばけもの好む中将」を呼ぶのでした。

 一方の宗孝は、十二人の個性的な姉がいることを除けば、いたって平凡な中流貴族の青年。ふとしたことから宣能に見込まれ、怪異探求の相棒にされてしまった彼は、毎度毎度宣能に引きずられるようにして、怪異の噂のあるところに引っ張り回される……というのが本シリーズの基本設定であります。

 残念ながらと言うべきか、幸いにもと言うべきか、これまでは本物の怪異に出会うことができなかった二人が挑むのは、かつて宿直の侍を押し殺したという板の鬼、南無阿弥陀仏の文字が浮き出た薪、そして冬に咲く青い睡蓮や仏殿に現れる飛天など数々の霊験が顕れるという寺院……
 と、今回も奇妙なものばかり。これまでのシリーズ同様、今回も短編中編織り交ぜて三つの物語が集まって、一つの大きな物語を形作ることとなります。


 さて……ここで正直に申し上げれば、平安ホラー・コメディとしてこれまで十分に面白かったものの、本シリーズは、作者のファンから見ればいささかおとなしめという印象がありました。
 もちろん一般レーベルの作品であり、物語の方向性も違うのですから、御所ハザードに内藤二阡が颯爽と駆けつけるような作品を期待するのが野暮というものなのですが、しかしもっともっとはっちゃけてしまって欲しい……というのが、作者のファンとして正直な気持ちでした。

 しかし、そんな小うるさい読者の勝手な夢が、今回ついに叶ったかの印象があります。本作の半分以上を占める中編にして表題作『踊る大菩薩寺院』では、作者一流のスラップスティックコメディが……そしてそれどころか、平安時代を舞台にした閉所パニックものとも言うべき、実にユニークな物語が展開していくのであります。

 上で述べた通り、数々の霊異が起きる寺院を訪れることとなった宣能と妹の初草の君。それとは別に、初登場の十二の姉とともに同じ寺院を訪れた宗孝ですが、そこで思わぬ事件に――いや事件の連続に――巻き込まれることとなります。
 その事件とは……少々長くなりますので、次回に続きます。


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ばけもの好む中将 四 踊る大菩薩寺院 (集英社文庫(日本))


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