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2015.08.12

和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』 鬼と人の間に立つ者

 これまでも数多くの作品が発表されてきた妖怪時代小説。その中に、実にユニークな作品が加わることになりました。鬼殺しの末裔であり、鬼を見る力を持つ南町同心が、鬼の末裔たちが無数に暮らす江戸で、人と鬼が引き起こす事件解決に奔走する物語であります。

 主人公・渡辺源時は、実家は老舗商人ながら、同心株を買って定町廻り同心となった青年。そんな彼の妹が、江戸を騒がす美女拐かしに誘拐されたのをきっかけに、彼の目には奇怪なものが映るようになります。

 それは、人に混じって暮らす様々な鬼の顔――実は江戸は人よりも鬼が多く住む町、商人や職人、さらには彼の岡っ引きや奉行所の人間も、鬼だったのであります。
 平安時代、酒呑童子を倒した源頼光の四天王。依頼、代々鬼を狩ってきた四天王の末裔の血を、源時は引いていたのでした。

 かくて、突然発現した力に戸惑いながらも、源時は鬼たちと時に戦い、時に触れ合いながらも、妹の拐かしを始め、次々と鬼絡みの怪事件に挑むことになるのであります。


 冒頭に述べたように、いまやサブジャンルの一つとして確立した感のある妖怪時代小説。そのスタイルは様々ですが、同じくサブジャンルである捕物帖と組み合わせた作品も、少なくはありません。
 しかしそんな中でも本作が一際異彩を放つのは、もちろん、江戸が鬼の町であり、そして主人公が鬼が見えるという基本設定にあることは間違いありません。

 とにかく、主人公を除けば登場する人間はごくわずか、後は登場するキャラクターのほとんどが鬼というのは――異世界ではなく現実世界を舞台としたものとしては――非常にユニークな部類に入りましょう。
(あまりに鬼ばかりなので、あるいはベレスフォードの『人間嫌い』のような話かと思いましたが、さすがにそれは深読みのしすぎでした)

 そして一口に鬼と言っても様々ですが、本作に登場する鬼は、狼、狐、兎、鷹、時鳥……と、それぞれ動物(時に虫や植物まで)をモチーフとした能力と習性を持つ存在。
 狼鬼は動物の血肉を好み(酒呑童子も狼鬼だった、という設定)、狐鬼はずる賢く……というのは序の口、様々な形で設定された鬼たちの存在は、そのまま本作の物語展開に直結していくこととなります。

 何よりも面白いのは、主人公が鬼殺しの末裔とはいえ、本作が必ずしも鬼を退治しておしまい、という展開にはならないことでしょう。
 上で述べたとおり、人が様々であるように、鬼も千差万別、悪鬼もいれば善鬼もいる、人と同様に他者を助ける者もいれば、犠牲にされる者もいる……というわけで、源時は、ある意味人と鬼の間に立つ者として、事件解決に奔走することになるのです。


 このように非常にユニークな設定の本作ですが、しかし正直に申し上げれば、それが十全に働いているとは言いにくいように感じる部分はあります。

 鬼の設定が本作ほぼ独自のものである点は、個性的である一方で、作品のかなりの部分をその説明が占めることになりますし、またそれが時に物語にとって便利すぎる形で働いているように感じられる点もあります。

 そして何よりも、登場する鬼が多すぎるが故に、人と鬼という、二つの全く異なる世界の相互作用――時に摩擦、時に融和という――という、妖怪時代小説最大の魅力があまり見えてこないように感じられるのです。
(この点、大半の鬼は人間社会に完全に溶け込んでおり、また源時以外の人間は鬼の存在を感じることができないため、やむを得ないをいえばそうなのですが……)

 イメージ的には悪役である鬼を、その軛から解放し、時に鬼よりも恐ろしくおぞましい人の姿を描くというのは、ある意味定番ながら興味深い趣向なのですが……


 作者は、料理や医学などを題材とした文庫書き下ろし時代小説をメインに活躍しているところですが、元々はホラーからスタートした作家(さらに言えば、時代ものでも『余々姫夢見帖』のように異能を題材とした作品があります)。

 本作のアイディアはその作者ならではのものと感じますし――それだけに、さらにその先を見せていただけるのではないかと願っているところではあります。


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