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2015.08.30

高田崇史『鬼神伝 龍の巻』 鬼と人の戦いの先にあるもの

 平安時代にタイムスリップした少年を主人公に、鬼と人、鬼と仏の戦いと、その陰に隠された鬼たちの正体を描いた『鬼神伝』の第3弾であります。今回の物語は、時と場所を移し、北条時宗の治める鎌倉を舞台として、再び鬼と人の戦いが描かれることとなります。

 前作では中学生だったのが、高校生となったものの、相変わらず周囲とはなじめない日々を送る天童純。
 ある日学校行事で鎌倉は長谷寺を訪れた彼は、長谷寺の弁天窟で、平安時代の戦いで命を落とした水葉によく似た少女を見つけ、後を追うものの意識を失ってしまいます。

 一方、七百数十年前の鎌倉では、鬼と武士の戦いが激化の一途を辿っている状況。そんな中、鎌倉で刀鍛冶を目指す少年・王仁丸は、巨大な太刀を振るって武士たちを血祭りに挙げる鬼の少女や、幕府をも恐れぬ過激な説法を行う僧・日蓮と出会い、それなりに平穏だった日常が、大きく揺らいでいくこととなります。

 そんな中、鎌倉方によって、かつて都で純操る雄龍霊と激闘を繰り広げた帝釈天が復活、劣勢に追い込まれる鬼たちの前に、阿修羅を奉じてきたという梶原家の青年武士・貞成が現れます。
 鬼と手を組み、北条家に反旗を翻そうとする貞成の言葉を受け入れ、梶原家と共同戦線を張って、江ノ島の弁財天と五頭龍復活を目指す鬼たち。

 さらに勝利を確実なものとすべく、雄龍霊復活を望む鬼たちですが、しかしその主たる純がその姿を現さぬまま、ついに決戦の日を迎えることに……


 前作から300年ほどの時が流れ、権力者が貴族から武士に変わったものの、なおも続く鬼と人の戦い。前作で天外の激闘を繰り広げた帝釈天と阿修羅の戦いも再び繰り返され、歴史は繰り返す、という言葉そのままの展開とも思えるのですが……
 しかし前作までと大きく異なるのは、人間側の描写がより詳細になり――何よりも、様々な立場の人々の姿が描かれる点でしょう。

 前作はほとんど鬼に対する人――そしてほぼ貴族に等しかったのですが――のみが登場したのに対し、本作には武士以外の人々、すなわち王仁丸のような市井の人々や、権力者に組せず、むしろ激しく論難する日蓮のような人々が登場。
 鬼を受け入れるとまではいかないまでも、鬼と必ずしも敵対するわけではない人間の存在が示されます。

 そしてまた、武士の側も一枚板ではありません。北条家によって冷遇され――そして妾腹のため自分の家の中でも冷遇されている――鬼との同盟を望む梶原貞成の存在は、鬼と人間の間の関係の、新たな可能性を示すものとも感じられます。


 実のところ、私は前作までの本シリーズには、いささか厳しいことを書いてきました。
 人間側で登場するのが、鬼の敵たる権力者のみであること。鬼と人間の対立関係の描写が一面的であること。それゆえ主人公の苦悩が平板なものに見えてしまうこと……

 しかし本作においては、これらの点はほぼ解消されていると言ってよいでしょう。人間側の描写についてはすぐ上に述べたとおりですが、主人公たる純の存在も(途中である程度予想度つくものの)一ひねりが加えられておりますし、これまでのシリーズのように、鬼の敵を蹴散らしてひとまず終わり、ということにはなりません。

 そう、本作において純が望むのは、戦いのその先にあるものであります。そのために必要となるのは、敵の打倒ではなく理解――相手を理解し、そして何よりも鬼の存在を理解させること――なのであります。

 本作でその姿が十全に描かれたとは言い難いかもしれません(あるいはその架け橋となるかもしれなかった人物が途中退場したのは、その難しさの象徴かもしれません)。
 しかし、それでもまずは一歩を踏み出したことに、何よりも価値があると信じるべきでありましょう。ある意味ここに初めて、戦いを終わらせる可能性が示されたのですから……


 『鬼神伝』シリーズは、現在のところ五年前に初版が刊行された本作が最新作となっています。
 それは、本作において鬼と人の在り方に一つの希望が見いだされた故かもしれませんが――仮に続編が描かれるのであれば、その先の物語、その希望の先に生まれるものを見てみたいという気持ちがあります。


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